『怪獣8号』実写的演出となった“アニオリ描写” 制作陣の気概を感じられる出来栄えに

アニメ『怪獣8号』(テレビ東京系)が、4月13日より放送開始された。アニメーション制作に『攻殻機動隊』シリーズを手がけたProduction I.G、怪獣デザイン&ワークスに劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズでも知られるスタジオカラーが参加していることもあり、アニメ放送前から公開されていたPVの映像の時点で作画のクオリティの高さは評価されていた。第1話「怪獣になった男」は、そんな制作陣の気概を感じられる出来栄えとなっていた。

本作は、X(旧Twitter)での全世界リアルタイム配信企画という画期的な試みも行われた。筆者もテレビ放送と同時に、Xでの配信をチェックしていたのだが、10万人以上もの視聴者が配信を観ており、国外からのコメントも寄せられていることから、世界的に注目を集めていたことがわかる。前代未聞の挑戦ではあったが、成功したと言える結果となった。

舞台は日常的に怪獣が人々をおびやかす世界。日本は怪獣大国と称され、「日本防衛隊」がその討伐業務に当たっていた。第1話では主人公・日比野カフカが“怪獣8号”となるまでが描かれた。現実世界では地震大国として、これまで多くの自然災害と共存している日本だが、本作ではその自然災害のメタファーとして怪獣が登場している。

印象的だったのは、アニオリ描写がふんだんに盛り込まれた冒頭の怪獣が登場するシーン。何気ない日常生活が描かれた後に、用水路から巨大な怪獣が姿を現すと、街には緊急怪獣警報が流れ出し、人々は用意されたシェルターへと逃げ込んでいく。怪獣が上陸するとともに、大きな波が街を飲み込んでいくシーンは津波を、衝撃で建物が崩れるシーンは地震をそれぞれ連想させ、自然災害としての恐ろしさを徹底的に描き出していた。と同時に、安全圏にいる女性の「どの部隊が来るかな?」という言葉からは、いかに災害が日常生活に浸透していて、危機管理のない人々で溢れているのかを示しているようでもあり、日本で生まれ育った筆者としては他人事ではいられない。そして、怪獣と日本防衛隊が対峙するシーンでは3Dアニメーションと2Dを組み合わせた迫力のある絵が圧倒的なスケールで描かれており、実写的な演出になっていた。

●レノの言葉をきっかけに日本防衛隊を目指すことに決めたカフカ

そんな怪獣を討伐しているのが日本防衛隊と呼ばれる精鋭部隊。現実世界に即すのであれば自衛隊が近いだろうか。主人公のカフカはそんな日本防衛隊に夢見ながらも、試験で不合格となり夢破れてしまい、怪獣専門清掃業で働いていた。怪獣を見事討伐した日本防衛隊は人々から称賛され、怪獣の死骸を清掃するカフカたちは日の光を浴びることはない。カフカのナレーションからは自分の仕事に誇りを感じているようにも思えるが、幼なじみであり日本防衛隊第3部隊長として活躍している亜白ミナには負い目を感じていた。「なんでこっち側にいるんだろ俺……」と頭を抱えるカフカは、まだ日本防衛隊への夢を諦めきれずにいた。

翌日、怪獣専門清掃業者にやってきたのが市川レノだ。防衛隊志望で、試験対策の一環として怪獣専門清掃業者でバイトを始めたレノは、カフカに対して「なんで諦めちゃったんすか?」と核心的な疑問を投げかける。最初はピリついた雰囲気が漂っていた2人だったが、誰もがやりたがらない腸の清掃作業を通して、仲を深めていく。腸の清掃で匂いに敏感になってしまったレノに、カフカが鼻栓を無理やり装着しようとするシーンが微笑ましい。

だが、そんな日常のひとときも余獣の存在で一気に地獄へと変わる。余獣がレノを食べようとしたところを、カフカが間一髪で救出。カフカはレノを逃がし、一人で余獣と退治するが当然敵わない。そこで、カフカはミナと一緒に日本防衛隊を夢見た過去を思い出し、これまでの選択を後悔する。レノの助太刀もむなしく、日本防衛隊によって救出された2人。だが、カフカにとってレノとの出会いは大きな転機となった。

レノの言葉をきっかけに日本防衛隊を目指すことに決めたカフカだったが、病床で休んでいたところに小さな怪獣が口の中に侵入し、怪獣に変身する能力が身についてしまう。なぜ怪獣はカフカに寄生したのか、そしてなぜ怪獣に変身する能力を得たのかといった事実はこれから明かされていくことだろうが、第1話のオチとしては完璧だったと評価できる。
(文=川崎龍也)

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