高齢者の住宅事情「減築」は効果ある?リフォーム予算の考え方も

【高齢者の住まいの悩み】減築に興味がある人は4割以上

総務省が2024年3月21日に公表した人口推計によると、3月1日現在の総人口は1億2397万人で、前年同月に比べ▲59万人減少しています。国内ではこうした人口の減少に伴い、世帯が小規模化する傾向があります。

個人規模で考えると、例えば住宅の減築などが求められることもあるでしょう。

減築とは住宅のリフォーム・改築を行って「床面積を減らして住宅のコンパクト化を図る」ことをいいます。

これにより維持管理の負担の軽減や生活動線の短縮化による身体的な負担の軽減、光熱費や冷暖房費の削減などを目的とするものです。

本記事では高齢者の住宅事情を考えると共に、減築のメリット、デメリットや予算の考え方について紹介したいと思います。

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高齢者の住宅事情

内閣府の令和3年度「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果(概要版)」によると、60歳以上の者の住居形態では持家(一戸建て)が74.5%を占めていて、分譲マンション等の集合住宅の持家と合わせると87.1%となっています。

【写真2枚中1枚目】60歳以上の者の住居形態は持ち家が多い?2枚目の写真で「減築を検討している人」の割合も紹介

しかし、将来については年齢を重ねることで、

  • 住宅の修繕費等の必要な経費が払えなくなる
  • 階段の上り下りが疲れる
  • 部屋の掃除や雨戸の開け閉め、庭の手入れなどが大変になる

といった不安を抱えている方も決して少なくないでしょう。

また築年数が経過している住宅が多いため、断熱性能が低くて夏は暑くて冬は寒い、耐震性能に不安がある、間取りの使い勝手が悪い、家の中に段差が多くて危険、防犯面で不安があるといった不満があることも否定できません。

こうした不満を解消するための手段のひとつに「減築」があります。

次の章では減築のメリットとデメリットについて見ていきましょう。

【住宅】減築のメリットとデメリット

この章では、高齢者にとっての「減築のメリットとデメリット」にはどのようなものがあるのかを紹介します。

減築のメリット

広すぎる住宅は掃除やメンテナンスに手間がかかって、高齢者にとって大きな負担になりかねません。

一方で減築は高齢者世帯に対して、経済的、身体的にも様々なメリットがあります。

減築のおもなメリットは以下の通りです。

  • 使わない部屋や無駄なスペースをなくすことで掃除などの家事負担が減る
  • 生活動線が短くなることで住宅内の移動がスムーズになり、転倒や転落などのリスクを低減することができる
  • 部屋数が減ることで光熱費を抑えることができる
  • 建物が小さくなるのでメンテナンス費用を抑えられると共に、固定資産税の負担を減らすことができる
  • 建物の耐震性や防犯性、断熱性の向上につながりやすい
  • 建物を一部撤去して隣家との間隔をあければ風通しや日照を改善できるだけでなく、火災発生時の延焼リスクを低減できる
  • 住み慣れた家に長く住み続けることができる

減築のデメリット

減築にはメリットばかりでなく次のようなデメリットもあります。

  • 建物の一部だけを解体するため、手作業での解体になって高額な費用がかかることがある
  • 工事内容によっては工事中の仮住まいが必要になる
  • 建物の床面積が変わるため登記申請が必要になり、申請の際には費用がかかる

したがって個々の経済状況や健康状態などを十分考慮した上で、実施するかどうかを検討することが必要になります。

次の章では減築の予算について紹介します。

【高齢者の住まいの悩み】減築に興味がある人は4割以上

国土交通省が2011年3月に公表した「減築による地域性を継承した住宅・住環境の整備に関する研究」によれば、減築に関する興味の有無を尋ねたところ、回答者の41.8%の方が減築に興味があると答えています。(現在は興味がないが検討の余地があると答えた方を含む)

減築に関する興味の有無
  • 興味がある:3.5%
  • やや興味がある:9.5%
  • 現在は興味はないが、検討の余地がある:28.8%
  • 興味はなく、将来もあまり考えられない:50.1%
  • わからない:8.1%
  • 合計:100.0%

また減築に興味のある人の世帯主の年齢では、60~69歳が30.7%で最も多く、次いで50~59歳(27.0%)、70歳以上(18.4%)となっています。

一方では減築に興味がない人の割合も60~69歳が36.4%で最も多く、次いで70歳以上(22.4%)、50~59歳(20.7%)となっていますが、これは高齢や低収入であることが減築に対する興味を低減させているためとしています。

減築工事の予算の考え方

減築にかかる費用は工事内容や施工規模、建物の構造、立地条件等により異なりますが、一般的には施工面積1㎡あたり10~20万円程度が目安といわれています。

したがって5坪(約16.5㎡)の減築であれば、165~330万円程度になります。

ただし2階部分の減築の場合には、足場の設置費用や減築した部分の屋根工事が必要になるので、一般的には1階部分の減築よりも費用が高額になります。

その他ひと口に減築と言っても減築のパターンはさまざまで、1階または2階の一部のみを解体する場合もあれば、1階と2階の一部を同時に解体したり、2階を全て解体して平屋にしたりすることもあります。

高齢者が住む住宅の場合には、平屋にするパターンが比較的多いといえます。

さらに建物の一部を解体するだけでなく、残った部分の間取り変更をしたり耐震補強や断熱改修などを行なったりすることもあるので、建て替えを行うのと同程度の費用がかかってしまうこともあります。

減築工事を行う際には必ず複数の業者から見積もりをとって、事前に各社の見積書の内容を比較することが大切です。

まとめにかえて

子供が独立した人などにとって、減築は長く快適に住み続ける上で非常に有効な手段だといえます。

また減築して2階建てを平屋建てにすると共に、1階部分のバリアフリー化を図ったり、耐震改修や断熱改修を行なったりすることで、高齢期の身体機能やライフスタイルに合った住まいにリフォームすることが可能になります。

今後は建物のコンパクト化(減築)が果たす役割が、社会的にも非常に重要になるといえるでしょう。

参考資料

  • 国土交通省「減築による地域性を継承した住宅・住環境の整備に関する研究」
  • 内閣府「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果(概要版)」
  • 総務省「人口推計(令和5年(2023年)10月確定値、令和6年(2024年)3月概算値)(2024年3月21日公表)」

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