ラッパー“TOKYO世界”が残した鮮烈な存在感──「ラップスタア誕生」で一躍注目株に

開催中のヒップホップアーティストのオーディション番組「ラップスタア誕生 2024」に出場するラッパー・TOKYO世界さんが話題となっています。

TOKYO世界さんは東京都のラッパー。サイファー映像の審査となる「SELECTION CYPHER グループC」の最後に登場。

どのラッパーもスキルフルな一方で、だからこそ特別な印象を刻むのが難しい流れの中、TOKYO世界さんがラップをはじめます。

TOKYO世界と、名曲「悲しくてやりきれない」

まずは《昭和歌謡がbro 千恵子倍賞でシコる(skrrr)》という下ネタを含めつつも自身のスタイルを簡潔に述べたラインを披露。一気に聴衆の耳をロックします。

そこから自身のトラウマや劣等感を自嘲的にスピットし、数多くの参加者の中で一際強烈な印象を残しました。

斬新なリリックはどこを取っても面白いものでしたが、特に注目すべきは昭和歌謡の名曲、ザ・フォーク・クルセダーズ「悲しくてやりきれない」のサンプリングの上手さでしょう。

ヒップホッププロデューサー・KMさんのシリアスな応募用ビートと、「悲しくてやりきれない」メロディが巧みにシンクロし、リリック全体の悲壮感とも相まって、真に迫るものを感じさせます。

そして、その重ねてきた悲壮感も《とてもやりきれない人生をchange》と、最後のバースで力強く昇華。見事、という他ない構成になっています。

「悲しくてやりきれない」自体、コトリンゴさんや坂本真綾さんなど、これまで時代を越えて数多のアーティストにカバーされてきた楽曲ということもあり、サンプリングすること/されることの必然性と説得力を持っています。

Ralph、R-指定が高評価「ここに行き着くのが大変」

番組の中で、審査員の一人であるRalphさんは「自分をめっちゃ理解している。ここに行き着くのが大変」「初めて、もう一度聴きたくなった」とTOKYO世界さんを高く評価。

同じくR-指定さんはそのリリックを読み解き、「昭和カルチャーに影響を受けながら、ネット時代の今の感覚を同居させている」と分析しました。《同じ人間なのに170もみたず人権もない》《同じ人間なのにあいつはバズり 俺はシャドウバン》など、悲痛なのに、どこか笑ってしまうようなネットミーム的な要素も詰め込んでいます。

TOKYO世界、SoundCloudの楽曲も良い

鮮烈な印象を与えたTOKYO世界さんに対して、リスナーが彼の楽曲のdigを開始。

SoundCloud上にすでに大量の楽曲が存在し、彼の世界観を知ることができるようになっています。

TOKYO世界 · syuzinkou (prod.jang0)

TOKYO世界 · Feeling Bad (prod.heydium)

オーディションのサイファーで魅せたように、昭和歌謡へのリスペクトが込められた楽曲群は、シティポップやドリームポップのようなニュアンスも聴き取ることができ、音楽的な幅の広さも感じさせます。今まで無名だったことが信じられないくらい、すでに高い完成度とオリジナリティを誇っています。

「ラップスタア誕生」はこれまでもグランプリ獲得者以外にも様々な新たな才能を世に知らせる役割を担ってきました。

今後、注目すべきラッパーはまだまだ登場するはずですが、まずはTOKYO世界さんが頭一つ抜けて、視聴者の心をフックしたのは間違いないでしょう。

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