覚えてる? 90年代『りぼん』モブキャラだけど良い味出してた“ヒロインの友達”

「特別展 りぼん」公式ビジュアル

1993年末に最高発行部数255万部を記録した、少女漫画誌『りぼん』(集英社)。“りぼん黄金期”と呼ばれたこの時期は、現代でもファンの絶えない人気漫画家がヒット作を連発していたころだ。

さて、そんな少女漫画には魅力的なヒロインが登場するが、彼女たちを支える脇役やモブキャラも作品の展開には必要不可欠な存在だった。そこで今回は90年代の『りぼん』作品のなかから厳選して、モブキャラだが良い味を出していた“ヒロインの友達”を紹介していこう。

■『天使なんかじゃない』“エンジェル冴島”を側で支える良き友「トン子&カヨ」

1991~94年に連載された矢沢あいさんの『天使なんかじゃない』は、シリーズ累計発行部数1000万部を超えるヒット作。新設された聖学園高等学校に入学した主人公・冴島翠と、少し“不良”な生徒会長・須藤晃との恋愛模様が見どころの青春学園漫画だ。

本作での翠の友人というと、同じ生徒会役員のマミリンこと麻宮裕子を思い出す人が多いだろう。だが、忘れてはいけない“ヒロインの友達”はほかにもいる。

それが、翠のクラスメイトのトン子とカヨだ。彼女たちは翠を生徒会役員に推薦し、「とにかくいいやつなんです!」「翠はA組の天使です!」と、応援演説をする。そして、ここでの“天使”というキーワードから、翠は学園内で“エンジェル冴島”と呼ばれるように。ちなみに、タイトルの『天使なんかじゃない』にも絡むワードでもある。

ほかにも、恋愛に悩みうわの空になっていた翠が調理実習でカヨに怪我をさせてしまったときにも「気にしないで」と、優しく励ましている彼女の様子や、念願叶って晃と恋人同士になった翠に「ちょっとちょっと奥さん! ご主人が来てるわよ!」なんて、からかう陽気なトン子の姿も描かれている。

作品の要所要所で登場するトン子とカヨは、翠にとってかけがえのない友達であることは間違いない。一般的な学生が体験する高校生活のように、恋愛だけでなく友情、将来の進路にいたるまで丁寧に描かれた本作は、時代が変わっても色褪せることはない『りぼん』名作のひとつだ。

■『こどものおもちゃ』鈍感な紗南と素直になれない秋人との関係を進展させた「剛」

次は、小花美穂さんが1994~98年に連載した『こどものおもちゃ』から。少年犯罪や両親の離婚問題、学級崩壊など当時の社会問題にも切り込んで描かれた本作は、それまでの少女漫画とは一線を画す作風で注目を集めた人気作である。

本作の主人公は、芸能界で活躍する小学生・倉田紗南。自身も出生に秘密を抱えていたりと複雑な家庭環境で育った背景を持っているが、養母である実紗子とも非常に良い関係であり、明るく活発で人気者の少女だ。

そんな紗南は、通っている小学校で学級崩壊したクラスを変えようと奮闘していく。先生いびりなどをして学級崩壊を先導しているのが、紗南のクラスメイト・羽山秋人だ。彼女は秋人の家庭問題にも踏み込み、学級崩壊からなんとかクラスを立て直していくのだった。

そんな秋人には大木剛(両親の離婚後は姓が佐々木)という幼なじみであり、親友がいる。丸眼鏡がトレードマークで一見大人しい剛だが、秋人のことを心配し、いつも側で寄り添う存在だ。

一時期、紗南に好意を寄せていた剛だが、結果的に紗南と秋人の橋渡し役として活躍することとなる。恋愛に鈍感な紗南に、「秋人くんの気持ち…ちっとも伝わってないの?」など、友人である秋人の好意をほのめかしたりと、2人の仲を取り持っていく。

作中、両親の離婚などつらい経験があったりもした剛だが、のちに同級生の亜矢と付き合うことに。この展開は嬉しかった。

■『ちびまる子ちゃん』作中屈指の“泣ける話”に登場した「たかし君」

1986年に連載がはじまった、さくらももこさんによる『ちびまる子ちゃん』。小学3年生のさくらさん自身を投影した主人公・まる子を中心に、学校生活や2世帯が同居する賑やかな家族との日常が描かれたコメディ漫画だ。今年で放送開始から34年目を迎えたアニメは、今もなお“日曜夕方の顔”として人気を博している。

そんな本作では実に個性的なキャラクターが多く登場しているが、なかでもまる子のクラスメイトの「たかし君」を最後に紹介したい。

早起きが苦手で遅刻をしがちなたかし君は、関口君や佐々木君からいつもいじめられていた。たかし君はお母さんに“早起きをする”という約束をして子犬を飼いはじめ、それをきっかけに遅刻が少なくなるも、今度は牛乳を残したことを二人に責められたうえ、お母さんの手製の給食袋を踏みつけられるなど相変わらずひどくいじめられてしまう。

そんな様子を見かねて止めに入ったまる子だったが、このとき関口君に突き飛ばされてしまい、頭から流血。するとまる子は自分のケガの心配よりも「どうしよう 学校でぶたれてケガしたなんて言ったら……おかあさん泣いちゃうよ」と、涙を流すのであった。

これは、たかし君がいじめられていることを家族に話したとき、おじいちゃんをはじめ、お母さんまでが“まる子がぶたれたりしたら、泣いちゃう”と言っていたことを受けてのこと。

普段はギャグ中心で明るいエピソードが多い『ちびまる子ちゃん』だが、この回は家族愛を感じられる作中屈指の“泣ける話”としてファンのあいだで認知度が高い。

いつもはおちゃらけてばかりのまる子がたかし君のことを本気で心配している様子は、小学校3年生という年代の子どもの葛藤や成長の様子を垣間見ることができるように思う。

モブキャラであるが、作品に大きな彩りを加えたたかし君だった。

少女漫画に限ったことではないが、登場回は少ないものの、読者に大きく印象を与えるキャラクターは多く存在する。

“モブキャラ”と言われる彼らだが、作中ではヒロインの心情やその後の展開に大きな影響を与えることもあり、その作品を知るうえで重要なピースのひとつでもあると言えるだろう。

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