アニメ界「月間225時間以上労働」5割、「年収240万円以下」4割 業界からは「全てが悪循環」

アニメ業界の5割が月間225時間以上働き、約4割が年収240万円以下だった――。日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が、こんな調査結果を2024年3月27日に発表した。

労働時間や収入面で厳しい状況がある。一方、「今後もアニメ業界で働きたいと思いますか」の問いに対し、約7割が「そう思う」「強くそう思う」と回答している。NAFCAとアニメーターに取材し、詳しく聞いた。

アニメーターで原画担当の河村美里(仮名)さんは、業界の現状を「全体的に余裕がなく、下の世代から技術が崩れていっています」と取材に話す。また、NAFCA事務局長で声優の福宮あやのさんも「全てが悪い循環になっています」と指摘。今回の調査結果で浮き彫りになった業界の一番の課題とは。

「異常とも言える」長時間労働

厚生労働省の2023年度調査によれば、一般労働者の平均月間労働時間は163.5時間。NAFCAの調査では、アニメ業界の5割が月間225時間以上労働。NAFCAは「非常に長いことは言うまでもなく、異常とも言える」とコメントしている。

また、業界の37.7%がアニメ関係からの仕事が年収240万円以下と分かった。業界以外の仕事に従事していない人は77.6%にのぼり、4人に1人程度は年収240万円以下で生活している結果になった。

NAFCA事務局長の福宮さんは、若い世代のアニメーターの人材育成に手が回っていない点が問題だと、J-CASTニュースBizの取材に説明する。熟練した技術をもつベテラン層が長時間働かざるを得ない状況を、こう説明する。

「現場は人手不足なので、スケジュールやアニメーターを管理する制作進行が、『アニメの画を描けそうな人』をSNSでスカウトする状況です。でも一枚絵は描けても、アニメの画は立体感なども考えて描く必要があります。技術不足の人から上がってくる多くの素材を上位行程の人にリテイクしてもらわなければならず、さらに当然ですが両者に報酬を払わなくてはならず、時間もお金も無駄になってしまっています」

現状では全てを修正しなくてはいけない素材も多い。ベテラン層は修正に時間を奪われ、使えない素材は別の人間への再発注をかけることもあり支払いが増える。

アニメ制作会社が知的財産(IP)を基本的に持っていないことも、業界の低収入に繋がる問題だ。一般的には、テレビ局や出版社などが組成する製作委員会がIPを所有。制作会社は、製作委員会から支払われた制作費を原資に映像を作るが、その後DVDを含むアニメグッズなどが売れても制作会社に利益配分されることはほとんどない。

修正が済んで整っているはずの原画が崩れていた

アニメーターの河村さんも、業界の現状を「ほとんどの工程でリテイクが発生している状態ではないか」と話す。アニメ業界では多い働き方であるフリーランスとしてアニメの原画を担当している。

原画担当とは、動きの中心になる画を描く仕事だ。その画を演出、作画監督、カットによっては総作画監督が確認、修正する工程を経る。次に、原画が滑らかに繋がって見えるよう間を描くのが動画担当だ。アニメの基礎的な知識が学べるため、新人が最初に担当する場合が多い。

河村さんは、動画担当時に「幾つものセクションを経て修正が済み整っているはずの原画がかなり崩れていて、キャラが人の形をしていなかった。その時に『アニメ業界、結構ヤバいかも』と思いました」と振り返る。

「30、40代の人たちは非常に忙しく、50、60代の先輩たちも大変そうで、なかなか話しかけられませんでした。全体的に育成するような余裕はないなと感じました」

河村さんが問題視するのは、NAFCAの福宮さんと同様、アニメ業界全体のスキルが低下していることだ。クオリティーの低い素材をリテイクする時間が多いことで、現場が疲弊している状況の改善を求めている。

労働時間や収入面など厳しい状況が続く業界。それでも今後もアニメ業界で働きたいと望む人が多いのはなぜなのか。河村さんは「やっぱり一番は楽しいから続けたいんじゃないのかなと思います」と話す。「もうけ」が目的ではないとも。

「多くの人は『楽しいから』とか『自分の技術を上げたいから』という理由で続けたいのだと思います。長時間労働だと言われますが、やればやるほど技術が上がることに時間を費やすのは当たり前とは思います」

NAFCAの福宮さんも、画を描くことに没頭して時間が経っていたと話すアニメーターは多いと説明する。「長時間労働は異常だと書きましたが、元々絵を描くのが好きな人が多いので、それを負担に感じる人は少ないかもしれません。だからと言ってこのままでいいとは思いませんが、まずは給与面が上がってほしいと思います」

スキルの底上げ、人材育成が必須

それでは、アニメ業界をどのように改善すればよいのか。福宮さんは、まずは業界全体のスキルの底上げと、そのための人材育成を重視する。一定のクオリティー以上の素材を描ける人が増えることで、無駄なリテイクや時間、労力、発注費が減っていく。

教育の一環として、NAFCAは24年に「アニメータースキル検定」を実施する予定だ。これは、アニメーターの基本になる「動画担当」に必要な技術と知識をレベルごとに測るものだ。

アニメの技術や知識を継承できなくなった理由は、リテイクの増加によるベテラン層の長時間労働に加え、アニメ制作本数も近年急増したためだ。また、特にコロナ禍以降のリモートワークの増加で、仕事場で集った人たちから得られた知識も受け継がれなくなった。

「初めに動画を学ぶことによって、原画担当や撮影など他のセクションにも共通する技術と知識を習得できます。アニメータースキル検定や検定用の教科書を通して勉強してもらうことで、今の状況を前向きな方向にしていきたいと思っています」

また、一定の条件以下の仕事は受注してはいけないというガイドラインを作ることも必要ではないかと、福宮さんは提言する。ガイドラインによって制作費は上がっていくことや、今まで安い制作費で依頼していた顧客が撤退することも考えられる。

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