亡き夫と世話してきた地蔵…自費でお堂建て替え 茂木の87歳涌井さん、ひ孫の誕生きっかけに決意

涌井さんと建て替えられた子安地蔵のお堂

 栃木県茂木町馬門(まかど)の農業涌井キシさん(87)がこのほど、自宅裏の古道沿いにある老朽化した子安地蔵のお堂を建て替えた。長年、夫一郎(いちろう)さんとボランティアで地蔵の世話を続けてきたが、昨夏、90歳で一郎さんは他界。それでも「地域に愛される地蔵を守り続けたい」と夫の思いを継いでいる。

 地蔵は現在の国道123号の、今は使われていない旧道沿いの土手にある。旧道は明治・大正期は馬車が行き交う主要道だったが、地蔵はその頃には既に往来を見守っていたという。

 キシさんが嫁いできた約60年前には安産祈願の地蔵として祭られていた。やがて「講」も組織され一時は大勢の人が世話をしたが、それも次第になくなり、地蔵も放置されたままに。

 そこで20年前に涌井さん夫婦が「このまままではかわいそう」と古くなったお堂の雨漏りを修理したり、土手の下草を刈って花を植えたりと独自に世話を始めた。しかし、お堂の老朽化は止まらず、雨漏りは続き、柱も朽ちて傾くなど倒壊の恐れが出てきた。

 一郎さんが亡くなった後もキシさんが1人で地蔵の世話を続けていたが、昨年12月にひ孫の那栩(いな)ちゃんが生まれたのを機に自費でのお堂の建て替えを決意。「周囲からは必ず反対意見が出る」と誰にも相談せず、知り合いの大工に頼んで2月下旬に新たなお堂が完成させた。

 お堂は高さ1.5メートルほど。屋根も真新しいトタン張りとなり雨漏りの心配もなくなった。「お地蔵さんの世話は自宅をきれいにするのと同じ。お地蔵さんが雨漏りでぬれることもなくなった。ひ孫も元気に育っています」と笑顔で話した。

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