【漫画】“普通”という名の圧力で潰れてしまった恋の行方はーー「初恋」の続きを描くSNS漫画の輝き

「普通」とは一体なんだろうか。多様性に対する理解は年々進んでいるようにも思えるが、それでも“世間の声”に惑わされ、さまざまなことを諦めざるを得ない人はまだまだ少なくないだろう。3月中旬にXに投稿された創作漫画『終わったと思った初恋が終われなかった』では、そんな息苦しさのなかで生きる2人の物語だ。

いかりとせつなは学生時代に付き合っていたが、“普通”に生きることーー女性同士の恋愛関係を解消することを選択して別れを決意。その後、2人は大人になって別々の道を歩む。しかし、いかりの職場にせつなが転職してきて、2人の物語が再び動き出す――。

本作を手掛けたのは、最近はSNSに漫画を投稿することが習慣化しており、多くの作品を読者に届けているたりほさん(@yk_trh)。前作『笑顔を作る癖のある女の子と怒りっぽい女の子の話』に登場した2人が大人になった姿を描いた続編となっている本作を制作した経緯など話を聞いた。(望月悠木)

■『学生編』とのビジュアルの違いは

――今回『終わったと思った初恋が終われなかった』を制作した理由を教えてください。

たりほ:過去に『笑顔を作る癖のある女の子と怒りっぽい女の子の話』という作品では、いかりとせつなの学生時代の姿を描いたのですが、以前から「続編を描きたい」と思っていました。『学生編』ではSNS向けを意識して描いていたので『大人編』は自分が見たい2人のドラマをそのまま描きました。

――近年ではセクシャルマイノリティに理解のある世界を描いた作品も増えてきた印象ですが、本作は偏見が依然として強い世界が舞台でした。

たりほ:私が「周囲からどう見られているのか」を気にしてしまう性格ですので、そのことがキャラの価値観に反映されています。「好きだから周りは関係ない」と言い切れる人もいれば、好きでも周りが気になって不安になってしまう人も少なくありません。「取り巻く環境も含めて恋愛って難しいよね」というところから世界観を考えていきました。

――いかりとせつなは『学生編』と多少変化を加えましたか?

たりほ:『学生編』の時と髪の長さを逆にしてみました。「失恋してもいかりちゃんが幸せならそれでいい」とさっぱりした考えのせつなは短く、「自分の弱さで好きな人と別れたいかりちゃんは変われずに伸びたまま」という感じです。また、『学生編』と同じですが、2人が別れたことで変わった価値観などを意識して性格を作りました。

――シリアス色が強いストーリーでしたので、せつなの“いかり愛”が爆発した時はラブコメ色が強くなります。このバランスはどのように調整しましたか?

たりほ:テーマが重く、「SNSで読んでもらうにはテンションが過剰に低いと敬遠されるのでは?」と考え、せつなの“いかり愛”が爆発しするシーンでは楽しげな雰囲気が伝わるようにこだわりました。また、シリアスばかりでは読者さんも疲れてしまうため、ところどころチビキャラにして重くなり過ぎないように調整しています。

■駿登場の背景

――本作では“目の演技”が多かったですね。

たりほ:単純に目を描くことがただ好きなだけかもしれません。ちなみに、大切な場面では“読者さんとキャラの目が合うよう”意識しています。わざとそらす時もありますが。

――前後半で分けた構成になっていますが、その理由を教えてください。

たりほ:もともとハッピーエンドにする以外は明確に決めておらず、描き進めるうちにページ数が増えたため前後半にに分けました。せっかく分けるので、“2人の心が一番すれ違う瞬間”という引きになるところで分けました。

――ちなみに、本作では駿がとても良い役回りでした。

たりほ:いかりがせつなと別れた時、「1人では立っていられないだろうな」という思いから駿というキャラを誕生させました。駿は『学生編』で“せつなに告白していた男の子のことが好きだったキャラ”と考えています。いつか駿が主人公のBL作品も描きたいと思っています。

――最後に今後はどのように漫画制作を行っていく予定ですか?

たりほ:商業漫画では現代恋愛モノや異世界モノなどを描き、SNSで百合作品を描くということは変わらず続けていきたいです。また、いかりとせつなの『復縁同棲編』も描き進めて行ければと思っています。完成しましたら、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。

(望月悠木)

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