45歳「月収40万円」の夫急死も、年金事務所「遺族年金は支給できません」に妻、撃沈…その後、収入減でも「やっぱり遺族年金は支給できません」に再び撃沈

残された家族が生活に困窮しないようにと支給される「遺族年金」。受け取るには、いくつかの要件がありますが、そのなかのひとつが収入要件で、年収850万円未満(または所得655.5万円未満)でなければ、支給の対象外となります。では、どれくらいの人が支給の対象外になる可能性があるのでしょうか。みていきましょう。

収入要件に引っかかり、万が一のときに「遺族年金」をもらえない人は?

残された家族の生活を支えてくれる「遺族年金」。被保険者が亡くなった当時、被保険者によってによって生計を維持されていた遺族に対して受給権が発生しますが、この「生計を維持されていた遺族」とは、「死亡した被保険者と生計を同じくし」「恒常的な収入が年収850万円未満(または所得655.5万円未満)」という、2つの要件を満たす遺族のことをいいます。

実際に、どれほどの人が対象となり、どれほどの人が対象外となるのでしょうか。「夫を亡くした正社員の妻」を例に考えてみます。

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、女性の正社員(平均年齢40.9歳)の平均給与は、月収28.18万円、賞与も含めた年収は440.81万円。さらに月収の分布をみていくと、賞与は平均月収の2.8倍を手にしています。中央値は19.26万円、上位10%で27.04万円です。

賞与は平均月収の2.80倍もらっているので、そのまま当てはめると、月収57.4万円を下回れば遺族年金の収入要件はクリアするといえます。女性の正社員の場合、収入要件を上回るのはたった0.14~0.20%。また給与水準の高い大卒に限っても0.59~0.85%という水準です。

【女性・正社員の月収分布】
10万円未満…0.24%
10万~20万円未満…56.50%
20万~30万円未満…37.92%
30万~40万円未満…4.48%
40万~50万円未満…0.52%
50万~60万円未満…0.19%
60万円以上…0.14%

女性の労働者は2,700万人強で、そのうち正社員は50%弱。そこから考えると、収入要件を満たさず、遺族年金をもらえない可能性のある正社員妻は全国に数万人程度ということになります。

ちなみに正社員の男性についてみていくと、年収850万円以上となるのは1.18~1.95%ほど。そもそも夫は遺族基礎年金の対象外で、受給できるのは遺族厚生年金のみという違いはありますが、収入の視点でみると、遺族年金は多くの人を対象にした制度であるといえるでしょう。

「収入が減りました、遺族年金はもらえますか?」の問いに年金事務所は…

たとえば、20~45歳まで平均的な給与を手にしてきたサラリーマンが亡くなったとしましょう。遺族が手にできる遺族年金は、以下の通りです。

●遺族基礎年金…子ども1人の場合:月8.75万円、子ども2人の場合:10.71万円

●遺族厚生年金…月4.31万円

ただ「たまったもんじゃない!」と声を挙げるのは、正社員で頑張ってきた高給取りの妻です。頑張って、頑張って、頂点を極めたのに、愛する夫を失くして悲しみにくれるなか、年金事務所からは「遺族年金⁉ あなた様の場合は……要件を上回る収入があるので、遺族年金は受け取ることができません」といわれてしまう、そんな辛い目に直面します。

そもそも遺族年金は、亡くなった人に養われていた遺族が、この先、生活に困らないようにと支給されるもの。そのため緩いながらも収入要件があります。このような主旨から鑑みると、高給取りの妻は、

――大丈夫、遺族年金がなくても、あなたは生きていけますよ

と太鼓判を押されたようなもの。遺族年金の対象ではなくても納得するしかありません。しかし、年金事務所に「収入が下がったので、遺族年金の申請にきました」と、(元)高給取りの妻。確かに、常に年収850万円以上をキープできるとは限りません。会社の業績が落ち込み収入減、転職をしたことによる収入減、働き方の変更に伴い収入減……さまざまな理由で「収入減」となる可能性は十分にあるでしょう。

そんなとき「遺族年金の収入要件を満たした!」と再び年金事務所に訪れたらどうでしょう。

――それは大変ですね、分かりました。向こうで手続きを……

となるかといえば、答えはNO。再び、「あなたに遺族年金は支給できません」と言われるのが目に見えています。

冒頭に記した通り、遺族年金は「被保険者が亡くなった当時、収入が850万円を下回っていること」が条件。このあと、どんなに収入が減ろうかなんだろうか、遺族年金の対象外であることに変わりはないのです。逆をいうと、遺族年金の受給確定後に、年収がどんなに増えようと、受給権は失権しません。このことも、高給取り妻が納得できない一因かもしれません。

[参考資料]

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

日本年金機構『遺族年金』

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