カンニングは“ひきょう者”か? 高2男子生徒自死で遺族が提訴、学校側に聞いた「指導内容」

学生の約4割がこれまでにカンニング行為をした、またはやろうとした、というデータもある(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

大阪市の私立清風高校2年だった男子生徒が2021年に自死した。男子生徒の遺族は4月8日、日ごろから「カンニングはひきょう者だ」などと教育していたことが自死を引き起こした原因として、学校側を相手取り、約1億円の賠償を求めて大阪地裁に提訴した。

「ひきょう者と思われながら生きるのが怖い」

複数のマスコミの報道によると、事件が起きたのは21年12月。

期末試験を実施していたとき、男子生徒のカンニングを試験監督の教諭が発見した。その後、男子生徒は自宅謹慎8日間や写経80枚、全科目0点などの厳しいペナルティーを受けることとなった。そして、自宅謹慎が始まった2日後、男子生徒は自ら命を絶った。学校側は警察からその事実を伝えられたという。

男子生徒が残した遺書には「このままひきょう者と思われながら生きていくのが怖くなった」旨の内容が書かれていた。試験前には「カンニングはひきょう者がする行為」と訓示が行われており、男子生徒には相当なプレッシャーがかかっていたのだろう。自死を受け、学校側は弁護士らで構成する第三者委員会を設置。審議を尽くしたものの、結論は「学校の指導が男子生徒を自死に追い込んだとはいえない」だった。

清風高校は1945年に「浅香山電機工業学校」として設立。48年に中学校を併設し、同年10月には男女共学になった。校名が「清風」となったのは49年のこと。「社会の全てから安心、尊敬、信頼される人間を育てる」との方針を掲げ、現在に至るまで多数の卒業生を輩出してきた。23年5月時点では、大阪大学や京都大学などの国公立大学のほか、立命館大学や早稲田大学、慶応大学など私立大学の進学実績もある。

ただ、清風高校といえば23年、前髪にかからない程度や耳元全体を刈り上げる頭髪、いわゆる「清風カット」強制の問題が話題となった。なお、この問題では、教員が自ら生徒の頭髪を切るなどしており、大阪弁護士会が「指導範囲を超えている」として見直しを求める動きもあった。

高校側「叱責ではなく聴取」一部報道を否定

本稿記者が男子生徒の件について清風高校に取材を申し込んだところ、快く引き受けてくれた。

まず、学校側がカンニング行為について「ひきょう者」と日常から指導していたのかどうか聞いた。すると学校側は「日常的かといわれれば、それは当てはまらないだろう。毎回というわけでないが、2〜3回ほど皆に注意はしていた。今回(21年12月)の場合は期末試験が始まる初日に、『カンニングするのはあかんで』と。カンニングをするのはひきょう者だと注意を促した」と説明した。

続いて、男子生徒への対応について聞いた。学校側は「カンニング発覚後、『別室で先生方が叱責した』と書いているマスコミがいたが、叱責はしていない。カンニングをやったかどうかの“事実確認”と、どのような経緯でカンニングをしたのかを聴取した。先生方が寄って集(たか)って4〜5人で叱責したことはない」と回答。そのうえで「男子生徒はカンニング判明後に落ち込んでいる。カンニングした事実は事実なのだから、カンニングしたことは反省をして、事情を聞きつつその先に向かって前向きに取り組んでいこうと話をした」とあくまでも叱責ではなく聴取だったと回答した。

聴取したときの状況については、「男子生徒1人に対して教員1〜2人で対応していた。その後にお母さんにも来てもらったが、お母さんを交えて話をしたときは別の部屋で説明し、学年部長や生活指導部長、学年主任、担任、副担任の5人が対応した」といい、今後の対応は「まだ訴状が届いていないため、訴状が届き次第対応する」とコメントした。

社会でも起きるカンニング...調査では「4割がカンニング」も

カンニングは絶対にやってはいけない。真面目に勉強してカンニングをせず、テストを受けたり受験に挑んだりしている人もいる。カンニングしてしまったのであれば、それなりのペナルティーを受ける必要はあるだろう。学校側が試験前に「ひきょう者」と注意を促したのは、公平・公正に試験を受けてほしいと思いからかもしれないと感じた。

社会人でもカンニングはやってはならない。22年11月、陸上自衛隊明野駐屯地(三重県伊勢市)所属の50代男性隊員が、理解度を測るための筆記試験でカンニングを行ったとして、減給30分の1と1か月の減給処分を受けた。さらに22年4月には、福岡県の警察署に勤務する30代男性巡査長が、昇任試験におけるカンニング行為で 本部長訓戒処分を受けている。

カンニングに関する調査もある。WEBマーケティング支援などを行うSheepDogの「カンニングに関するアンケート」(2023年1月実施)によると、300人を対象とした全国の15〜19歳の学生のうち、「しようと思った」「過去1〜2回したことがある」「よくしている(過去にしていた)」と回答したのは計41%で、約4割が何らかのカンニング行為をやった、またはやろうとしたことがうかがえた。

今後の裁判ではどのような判断が下されるのだろうか。判決の行方に注目したい。

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