「相続は事前に話し合わないと、9割が揉める」……裁判沙汰にならないまでも、遺産を巡って不仲になる、遺産分割以外にも介護、お墓に関するトラブルが発生することなどを考えると、9割という数字は決して大袈裟なものではありません。司法書士兼行政書士である太田昌宏氏の著書『円満相続のための 家族会議の始め方』(メディアパル)より、一部抜粋して紹介する本連載。太田氏が、司法書士ならではの視点から、トラブルを未然に防ぎ、円満な相続を実現するための家族会議の方法を、できるだけ分かりやすい表現を用いて解説します。
財産は「せいぜい預貯金と家くらい」?
相続財産に含まれるもの・含まれないものについて解説します。
財産といっても「せいぜい預貯金と家くらい」と思っていませんか? 極端にいえば、おはし一膳、茶わんひとつから、土地や家屋まで自分が所有しているものすべてが相続の対象になります。
つまり、家の中にあるあれもこれも、相続財産なのです。もちろん、お金になる・価値があるという点で見れば、財産とは言えないかもしれませんが、相続の対象に入るか入らないかでいえば、入ります。
独居老人が亡くなったとき、家の中にある家具や食器類は、他人が勝手に処分できないという話を見聞きしたことはないでしょうか? 見た目は不要品でも、形式的にはその相続人に所有権が移っているため、所有者の承諾なしに勝手に処分ができないのです。
また、仏壇やお墓などの祭祀財産は、相続財産には含まれません。これらは一般の相続とは異なる方法で引き継がれます。
そのほか、相続財産に含まれないものは、 「亡くなった人に一身に専属するもの」です。つまり、その人が持っている資格や免許などです。ほかにも、生活保護を受ける権利や、公営住宅に住む権利などがあります(参考:【図1】)。
【図1】
見落としがちだが、見落とすと厄介な「相続財産」
ここでは、私の経験上、見落とされがちな相続財産の例を紹介します。会議の前に有無を確認しておきましょう。
①住宅ローンなどの「マイナス財産」
財産という響きから、お金やモノなどが強調されますが、「借金」も財産です。つまり、相続したら返済の義務が生じます。
②田畑や山林など
親が地方に在住、子が都市部に在住するケースで、のちのち判明する財産です。とくに親自身が相続して受け継いでいる場合に、忘れられがちです。親が住んでいる家は財産として認識できるでしょうが、さらに遠方にある親の実家の土地や田畑、山林などは知らないケースが多いでしょう。
さらに注意したいのは、(子からみて)祖父母名義のままになっている土地や建物がある場合、つまり相続の手続きが終わっていない財産が存在した場合に、相続財産に含まれるケースもあります。
③死蔵されている品々
人付き合いの多い家でよく見つかるのは、お中元やお歳暮、お祝いの品々として納戸や引き出しの奥に眠っている食器セットやタオルなどです。このあたりも相続財産に含まれますが、そもそも相続以前に処分や売却を検討したいところです(参考:【図2】)。
【図2】
処分に困る財産は、事前に譲渡や処分も検討を
相続に関わる相談ごとでは、「親には、生前に雑多なものを処分しておいてほしかった」という声をよく聞きます。
相続人からすると、なんでこんなものを大切に取ってあるかわからないということでしょう。「その価値は、自分にしかわからない」──そう思っているなら、処分も人まかせにしてはいけません。
とくに判断に困るのは「趣味のコレクション」です。美術品やアンティークといった市場価値のあるものが含まれるかもしれませんが、知らない人にとっては、ほとんど価値がわからずガラクタにしか見えないのです。
趣味の品は、価値のわかる人に引き取ってもらうか、趣味のモノを扱う店やネットオークションなどで売却しておきましょう。
また、写真や記念品のような、本人にとって重要なモノも、死後に家族が困ることになります。思い入れが強かったり、親から受け継いだりしたモノで、どうしても処分ができない場合は、家族会議で説明しましょう。どういうもので、どう処分するのか決めておくだけでも、家族の負担は軽くなります。
さらに、処分費用も用意すれば安心です。押し入れのなかにひっそりと眠る品々は、手間の面からも金銭面からも、早めに手を打つことをおすすめします。
太田 昌宏
司法書士・行政書士