『95』髙橋海人が『花より男子』を参考にイメチェン 「世界が終るまでは…」の選曲に拍手

徐々に春ドラマが出揃う中で、ドラマ『95』(テレビ東京系)は改めて特異なムードを纏っているのを感じる。

それはタイトルの『95』が示す1995年の空気。初回では阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件、ノストラダムスの大予言といった教科書レベルで刻み込まれている歴史的な出来事が、秋久ことQ(髙橋海人)を突き動かしていった。

ほかにも浜田雅功と小室哲哉による音楽ユニットH Jungle with tの楽曲「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」や『電波少年』(日本テレビ系)シリーズなど、当時のヒット曲やテレビ番組も多く登場したが、第2話ではまた違った角度から95年の雰囲気が色濃く捉えられている。

3人組ロックバンド・WANDSによる楽曲「世界が終るまでは…」 もリリースは95年。アニメ『SLAM DUNK』の曲として今でも広く知られている曲であるが、これを翔(中川大志)たちチームのメンバーがアジトにしている小屋にあるカラオケで熱唱する。Qを除いて。翔からチームへ誘われながら踏ん切りがつかずいつまでも悩んでいるQへの見せしめのように歌われるのが「世界が終るまでは…」であり、サビを歌いたいけど歌えないもどかしさを伝えるのにベストな選曲ともいえる。

カラオケ店でアルバイトをすることになったQ。カラオケ会社の社員として働いている29年後の秋久(安田顕)と繋がってくる部分だ。そこで再会する加奈(浅川梨奈)、恵理子(工藤遥)たちコギャルに絡まれ、Qは思わず股間を抑えてしまう。「童貞」と罵倒され、女性経験皆無なQにマルコ(細田佳央太)から参考書として差し入れされるのが、漫画の『花より男子』(1992年~2004年)と『ホットロード』(1986年~1987年)。レオ(犬飼貴丈)の受け売りで“女が見たい男”が描かれている『花より男子』をマルコが持ってきたというわけだ。ちなみにマルコにとってのバイブルは、男たちが描いた壮大なロマンが詰まった『BOYS BE…』(1991年~)。余談だが、Qたちに遅れ数年後に高校生となった筆者のような場合は、『I"s』(19997年~2000年)と『NANA』(1999年~)がその例に当てはまる。

●イメチェンの結果、モデルとしてスカウトされることになったQ(髙橋海人)

服装や髪型も半強制的にイメチェンされたQは、ファッション誌の編集長・殿内弥生(新川優愛)からモデルとしてスカウトされることとなる。ここで登場するのが、ポケベルだ。ドヨン(関口メンディー)の番号にQから初めて届いたメッセージが「スカウトサレタ」。確実に動き始めているQの運命。だが、いまだチームに入ることを逡巡している都合のいいQに翔は憤りを感じていた。そこで翔が提案したのが仮入部。「法を疑え! 決めるのは自分だ」という翔の言葉に、Qは渋谷・円山町でいつもすれ違う援交されていく女子高生をおっさんから救うことを決める。

今まで何度も思い描いては淡く儚く消えていったイメージ。それが実際に今目の前で起きている。鞄に当てた蹴りから、顔面寸止めのパンチ。「引っ込んでろよ、おっさん」と絞り出した声は震えていた。女子高生にとっては金づるが逃げてしまった、厄介者でしかないだろうが、Qにとっては覚悟を決め自分のプライドを守り抜いた瞬間。今を生きた瞬間。翔はQをチームの真ん中に立つシンボル、主人公だとして、戦隊モノであれば「赤になれるやつ」だと彼にこだわる理由を話していた。ラブホ街での出来事は、渋谷の街全体としてはなんてことのないいざこざだが、Qにとっては主人公としての片鱗を見せつけた勇気ある一歩だった。

Qや翔だけでなく、マルコ、レオ、ドヨン、加奈、恵理子といったチームの面々のパーソナルも映し出された第2話。本作のヒロインであるセイラ(松本穂香)はどこか陰のある人物としてベールに包まれた部分が多く、第3話では彼女の素性についても少しづつ明かされていく予感がする。
(文=渡辺彰浩)

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