オーストラリアの最大都市シドニー郊外にあるキリスト教の教会で15日、礼拝中に司教を含む少なくとも4人が男に刃物で刺されて負傷した。警察は16歳の少年を逮捕。宗教的動機による「テロ行為」と断定した。
事件は15日夕、シドニー中心部から南西約35キロのウェイクリー郊外にあるアッシリア東方教会「ザ・グッド・シェパード・チャーチ」で起きた。
警察は声明で、「負傷者は命に別状はなく、ニューサウスウェールズ州救急隊員による治療を受けている」と述べた。
負傷者は20歳から70歳までの男性とみられる。
50代と30代の男性が複数の裂傷で病院に搬送されたと、地元紙シドニー・モーニング・ヘラルドは報じた。
犯行動機は分かっていない。
ニューサウスウェールズ州のアンドリュー・ホランド副総監代理によると、16歳の容疑者は片手を負傷し、治療を受けた。容疑者は安全な場所へ移されたという。
同州では13日にもシドニーで、買い物客らが男に刃物で刺され、6人が死亡する事件があった。犯人は現場で警察に射殺された。
この二つの事件に関連があることを示すものは見つかっていない。
市民らと警察が衝突
発生当時、礼拝の様子はライブストリーミングされていた。
事件を受け、教会の外に集まった数百人が容疑者を表に出すよう要求し、警察と衝突した。
人々は石やれんが、ビンを投げるなどし、警察車両20台が損傷した。うち10台は使用できなくなった。警察はペッパースプレーを噴射したと、ロイター通信は報じた。
この衝突で警官2人が負傷した。うち1人は、レンガとフェンスで殴られてあごを骨折した。
救急隊員は教会内に避難し、3時間以上も「閉じこもる」事態となった。
警察は市民に対し、同地域に近づかないよう求めた。
アッシリア人コミュニティの拠点
AFP通信によると、ウェイクリーは、キリスト教を信仰するアッシリア人の小規模コミュニティーの拠点で、その多くはイラクやシリアでの迫害や戦争から逃れてきた人たちという。
礼拝のライブストリーミング映像では、黒い服を着た男性が司教に近づき、何らかの武器で襲っているように見える。どのような武器なのかはすぐには特定できていない。
数人が割って入ろうとし、叫び声が上がった。
アンソニー・アルバニージー豪首相は15日、国家安全保障機関の緊急会議を招集し、教会での事件について、「不穏な」攻撃だと語った。
「我々は平和を愛する国だ。(中略)暴力的な過激主義の居場所はどこにもない」
また、「特に若年層にとって非常に有害である可能性のある動画の公開など」のソーシャルメディアの役割について当局は懸念していると、首相は付け加えた。
そして、さらなる暴力行為を起こさせないため、「私的制裁を加えないよう」国民に求めた。
ニューサウスウェールズ州警察のカレン・ウェッブ長官は16日朝、司教と司祭が手術を受けたことをメディアに明かし、「生きていて幸運だった」と語った。
地元メディアによると、襲われたのはマー・マリ・エマニュエル司教。2011年に司祭に叙任された。人気がある一方で、物議を醸す人物とも受け止められている。同司教の説教はソーシャルメディアで数百万回視聴されている。
警察、「宗教的過激主義の事件」と確信
オーストラリアの警察は、テロ犯罪をイデオロギー的動機による犯罪と定義している。
今回の事件については現在も捜査が進められているが、ウェッブ長官によると、捜査当局は宗教的過激主義が関係していると確信しているという。
16歳の容疑者は司教に近づく際、「宗教を中心とした」発言をしたとされる。警察は、ライブストリーミングされているの礼拝中に襲撃を仕掛けたのは、「出席していた教区民だけでなく、オンラインで見ていた教区民をもおびえさせる」意図があったと考えている。
ウェッブ長官は、容疑者は単独犯で、「警察に知られた」存在だが、テロ監視リストには含まれていなかったと述べた。
容疑者は指を何本か負傷して手術を受けたが、警察によると、自らの武器で負傷したのか、信徒に取り押さえられた際に負傷したのかは分かっていない。
この事件は、シドニーのショッピングセンターで容疑者を含む7人が死亡した殺傷事件のわずか2日後に起きた。
「ニューサウスウェールズ州は緊張状態にあり、地域社会はこの瞬間も当然、不安を抱いている」と、同州のクリス・ミンズ知事は述べた。知事は、冷静でいるよう求める宗教団体や地域社会のリーダーたちの呼びかけを繰り返した。
「彼らのコミュニティーに対するメッセージは普遍的で一貫している。彼らはあらゆる形態の暴力行為を嘆き、ニューサウスウェールズ州警察の捜査を信頼している」
ウェッブ長官は、事件後の騒動について調べる部隊が結成されたと述べた。そして、「暴動に関与した人たちは、自宅のドアをノックされるかもしれない。(中略)我々はあなたを見つけ、逮捕しに行く」と付け加えた。
同州の救急当局のトップも、群衆の行動は「言語道断なもの」だったとした。
「我々の仲間は日々、治療や救助に向かっているだけだが、コミュニティーから支持を得られていることを知る必要がある。そうでなければ、誰がこのような仕事を進んでするのだろうか」
(英語記事 Sydney church stabbing declared a 'terrorist attack'/Sydney church stabbing: Boy, 16, arrested after Bishop attacked)