アマチュア相手に「ちぐはぐな動き」で完敗【【風間八宏監督と『キャプテン翼』南葛SCの挑戦】(1)

風間八宏監督と南葛SCの挑戦がはじまった。撮影/サッカー批評Web編集部

日本サッカーの発展はすさまじく、トップカテゴリー以外のチームも、著しくレベルが上がっている。そんな中、地域リーグから新たな挑戦をしているのが、南葛SCだ。かつて川崎フロンターレを強豪へと押し上げる礎を築いた風間八宏監督と南葛SCの挑戦に、サッカージャーナリスト後藤健生が目を凝らす。

■強い川崎の基礎を築いた名将が「関東リーグ」に

関東リーグ1部の南葛SCが、4月14日に行われた同リーグ開幕第2節で東京ユナイテッドFCを2対0で破って、今季リーグ戦での初勝利を飾った。

東京都葛飾区に本拠を置く南葛SCは、あの超有名サッカー漫画の作者である高橋陽一氏を代表に迎え、チーム名も作品の世界と同じ「南葛SC」としたことで一躍、注目を集め、その後も稲本潤一をはじめとする多くの有名選手を次々と獲得。さらに、JR新小岩駅近くに専用スタジアムを建設すると発表するなど、次々と話題を提供しているチームだ。

そして、今シーズンはあの風間八宏氏を監督に迎えたことで一段と注目は高まっている。

風間氏は、言わずと知れた、あの強い(強かった?)川崎フロンターレの基礎を築いたことで知られる日本を代表するサッカー指導者の1人。その風間氏がなんと関東リーグの監督に就任したのだ。

風間体制になった南葛は1月に始動。当初は“風間流”のトレーニングに戸惑いもあったようだが、それも次第に浸透し始めているようだ。トレーニングの模様を見ている人に聞くと、「かなり高度なトレーニングを行っている」ともいう。

そんな始動したばかりのチームにとって、関東リーグでの1勝は自信につながることだろう。

■Jリーグ昇格を争う「先輩格チーム」に勝利も…

対戦相手の東京ユナイテッドは、慶應義塾大学ソッカー部OBによる「慶應BRB」と東京大学ア式蹴球部OBによる「東大LB」を合同して作られたクラブで、2017年に「東京ユナイテッドFC」となった。

2017年に関東リーグ1部に昇格すると、2021年の9位を除いて、すべて2位か3位に入っており、関東リーグの強豪の一つだ。昨年も準優勝しており、南葛とは2度対戦して、2度とも勝利している。

昨年、関東リーグ1部に昇格したばかりの南葛にとって、東京都心の文京区をベースとする東京ユナイテッドは格上の先輩格のチームであり、また、東京23区からのJリーグ昇格を争うライバル関係ということになる。

南葛は、第1節ではジョイフル本田つくばFCに0対1のスコアで敗れ、さらにミッドウィーク(4月10日)に行われた「東京都サッカートーナメント社会人系の部代表決定戦」(天皇杯全日本選手権の東京都予選の準々決勝に当たる試合)でも、横河武蔵野FCに0対2と完敗していた。

横河武蔵野は東京郊外の武蔵野市に本社を置くメーカー、横河電機を母体とした地域クラブ。

実業団チームとしての横河電機は、創部が1939年という伝統あるチームだ。この数年はJリーグ入りを模索してみたり、東京ユナイテッドと共同運営を行ったりと紆余曲折があったが、今年からチーム名も「横河武蔵野FC」に戻してJリーグ入りは断念。アマチュア・クラブとして戦うこととなった。

その横河武蔵野との対戦では、南葛は球際の強さなどで圧倒された。

全国リーグであり、J1リーグから数えて4部相当のJFLも、2022年頃からかなりレベルアップしており、そうした「リーグのカテゴリーの差」を見せつけられたような結果となった(もっとも、社会人系代表決定戦のもう1試合では、JFLで苦戦を続けているクリアソン新宿が、関東リーグ1部のエリース東京FCに敗れたのだが……)。

■アマチュア・クラブに「完敗」した理由

いずれにしても、横河武蔵野と対戦した南葛は完敗だった。相手との力の差という面もあったが、それ以上にチームとしてのやりたいことが出せなかったのが敗因だった。

たとえば、中盤で良い位置を取った選手にボールが渡って「さあ、チャンスだ」という場面で、選手たちの動きがバラバラになってしまったのだ。

ボールを持った選手のサポートに入る選手や、パスを受けるために寄ってくる選手がいたり、あるいは裏のスペースに向かって走る選手などがタイミングよく動き出せば、複数のパスコースが生まれて攻撃がスムーズに展開するはずだ。

だが、横河武蔵野戦の南葛には、そういう連動性が見られなかった。

全員が同じ方向に動いてしまったり、次の動きを考えて足が止まってしまったり。そういった、ちぐはぐな動きがことさら目についたのだ。

「風間監督のチームが何をやっているのだろう?」とも思ったが、考えてみれば、これが“風間流”なのだろう。

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