コンビニで大人気『豆腐バー』が初の海外進出 メーカー社長が明かす開発のひらめきと海外製造をしないワケ

左から『豆腐バー』のバジルソルト風味、きんぴら大根味、焦がし醤油味 撮影/編集部

1972年に、前身である「朝日食品(株)」が創業された、老舗豆腐メーカーの「アサヒコ」。同社は日本各地のコンビニやスーパーで豆腐をスティック状にした『豆腐バー』を発売しているが、同商品の海外展開を、4月11日からスタートさせた。海外発売第1弾の国として選んだのは、マーライオン像で知られるシンガポールだ。

食品業界に詳しいジャーナリストが話す。

「シンガポールは日本食人気も高く、高齢化が進んでいることや、共働き家庭の増加で“手軽に食べられる食品”の需要があることが、アサヒコが同国を海外進出の初拠点に選んだ理由のようです。

『豆腐バー』は2020年11月にセブン-イレブンで販売スタート。手軽に食べれて健康的という点が消費者に受けて、1年間で約1000万本を売り上げるという大ヒット商品となりましたね」

同社代表取締役・池田未央社長によれば、26年までに、同社で販売する穀類や野菜類を加工した植物性商品の売り上げを海外構成比で10%にまで高めるのが目標だという。今後、『豆腐バー』が挑むことになるのは“世界市場”。弊サイトでは『豆腐バー』のさらなる可能性について、開発を手掛けた池田社長に話を聞いた。

池田氏は1995年に東京農業大学を卒業後、20年以上菓子業界を歩んできたという。マスカット味ののど飴や『キシリクリスタルミントのど飴』など、ヒット商品を数多く手がけてきたことでも知られるカリスマ開発者だったという。そんな池田氏が、アサヒコに入社したのは18年4月のこと。

「お菓子は“心の栄養”。でもお菓子業界でできることはやり尽くしたし、次は“体の栄養”として何かできたらいいなと思っていたところへ、ご縁があって入社したのですが、お豆腐って、絹と木綿があることぐらいしか知らなかったんです。

お菓子は華やかだし、仕事にしていて楽しいんだけど、豆腐業界に来てみたら、すごい地味でビックリ(笑)。豆腐は全部白いし、せいぜい油揚げの茶色があるぐらい。ときめきもないし、すごいところに来ちゃったと思いました(笑)」(池田氏)

■足かけ2年、社内の空気が変わったきっかけは

見た目にも華やかな商品が並ぶお菓子業界。そこと豆腐業界のギャップに困惑していた前出の池田氏だが、“目からウロコ”の経験をしたのは、18年4月の入社から3か月目、偶然誘われて出かけたアメリカ視察でのことだったという。アメリカのスーパーでは、豆腐が肉や魚と同列の“たんぱく源”として並んでいることに新鮮さを感じた池田氏は、「これだ!」と思ったという。

「初めて、”豆腐かっこいいじゃん!”と(笑)。日本でも筋トレ人気などの影響でたんぱく質ブームがあるし、“豆腐=地味な和食”から、“植物性のたんぱく源”という定義に変えれば、豆腐の新しい道が開けるんじゃないかと思ったんです。

そこでアメリカ人に豆腐をどうやって食べるのか聞いてみたら、焼いたり揚げたりするって言う。それなら柔らかい豆腐じゃなくて、固い豆腐がいいなと思って、帰国してから“とにかく硬い豆腐づくり”の試作を始めました」(池田氏)

今までにない豆腐を作ろうとする池田氏の姿勢に、当初、社内の空気は冷たかったそうだ。大きなきっかけとなったのは、大手コンビニエンスストア「セブン-イレブン」の意見だったという。

「社内では、最初”何やってんだアイツ”、みたいな(笑)。でも、お菓子業界にいたときも、商品開発に苦労は付き物でした。いつも問題解決をしながら一歩一歩チームで前に進んできたという思いがあるので、そんなに簡単に逃げる選択肢もないんです。

試行錯誤を続けてなんとかプロトタイプができたのが、19年の秋。それをセブン-イレブンさんに持っていったら、興味を示してくれたんです。セブン-イレブンの売れ筋商品に、手軽に食べられるたんぱく質商品として『サラダチキンバー』があるけど、植物性の手軽なたんぱく源商品はまだない。たんぱく源を売りにする豆腐商品を面白い、とセブン-イレブンさんが評価してくれたことで、社内の空気が一気に変わりました」(前同)

■お手本は『サラダチキンバー』、1年で1000万本の大ヒット

社内から冷ややかな視線を浴びていたのが一変。ただし、商品の販売にあたって「セブン-イレブン」は池田氏に”課題”を設けた。『サラダチキンバー』のような商品を作ってくれというのだ。

「チキンのような食感、弾力(噛み応え)があって、たんぱく質は10グラム以上。豆腐といえば水っぽいのが付き物だけど、仕事しながらでも食べられるように、絶対に手が汚れない仕様にすること。男性の好みにも合うように、味はしっかり濃くつけること。それを一つずつクリアするのに、1年かかりました」(池田氏)

開発に足かけ2年。20年11月に「セブン-イレブン」で『豆腐バー』の販売が開始されると、1年間で約1000万本と想像以上の大ヒットへとつながったという。国内でのヒットを受け、「もともと海外での豆腐から着想を得ているので、海外でも通用するかなと思い始めた」(前同)という。

しかし、賞味期限が長くない豆腐を輸出するためには、”冷凍保存”が必須になる。そこで同社は超高速凍結技術を取り入れ、品質を劣化させずに海外へ持っていくことに成功したそうだ。原材料は北米産の大豆であることを考えると、いっそ現地で製造したほうが早いようにも思えるが、そうしなかったのには理由があるという。

「日本の水は軟水、北米の水は硬水なんです。同じ大豆で豆腐を作っても、やっぱり軟水で作った豆腐が私はおいしいと思うんですよ」(前同)

■海外一発目をあえて『旨み昆布』にした理由

水にまでこだわって作った豆腐。初の海外進出となるシンガポールで売り出すのは『豆腐バー 旨み昆布味』だという。日本人には素朴な風味がなじみ深い昆布味だが、海外展開をするなら、すでに販売中の『豆腐バー バジルソルト風味』や、味が濃い『焼豆腐バー 焦がし醤油味』の方が向いているのでは、と問いかけると、前出の池田氏は「一番日本で売れている味で勝負したい」と、こだわりを明かす。

「確かに、シンガポールの人は濃い味が好きだから、“旨み昆布”味だと、もしかすると薄すぎるかもという意見はありました。でも、やっぱり和食らしいものは昆布風味。まずは、それでチャレンジしたいという思いが強くありました。

ただ、ここからがスタートです。味だけでなく、生食というスタイルへの賛否など、いろいろ海外での課題は出てくると思うんですね。今回のシンガポールは、それらを見るためのテストという位置づけでもあるんです」(池田氏)

そんな池田氏は、SNSで「めっちゃエゴサしてます」と楽しそうに明かす。

「日本に来た海外の方が、豆腐バーを食べているという投稿はめちゃくちゃチェックします。普通に豆腐バーをおつまみに、日本酒を飲んでいる海外の方とかいるんですよ。だから絶対、海外でも豆腐バーはいけると思うんです」(前同)

2013年に和食が世界文化遺産に登録されてから11年目。日本の伝統食”豆腐”でできた『豆腐バー』は、海外でも受け入れられるだろうか。

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