「Rise of the Ronin」レビュー:手堅く楽しめる優等生的オープンワールドという印象の先にある、このゲームならではの“3つの魅力”

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が販売、開発をコーエーテクモゲームスのTeam NINJAが手掛けるPS5用オープンワールドアクションRPG「Rise of the Ronin」のレビューをお届けする。

「Rise of the Ronin」は、黒船の来航によって混乱の渦に呑まれた“幕末”の日本を舞台に、名もなき浪人として時代の分岐点で己の運命を切り開いていくゲームだ。作品世界は横浜、江戸、京都に分かれた3つのオープンワールドで構成されており、坂本龍馬をはじめとした実在の人物たちと各地で“因縁”を深めることで、物語が紡がれていく。

本作は、一見すると過去にオープンワールドを採用したタイトルが導入してきた要素の組み合わせによって構成されており、目新しさは薄いように感じられる。それもまた事実ではあるのだが、幕末という舞台を活かし、そして開発チームのアドバンテージを活かすための各種要素の重み付けにより、独自の魅力が確かに味わえるゲームでもある。

それらは、大きく括ると“3つの魅力”として集約できるのではないかと筆者は考えた。本稿では、この“3つの魅力”をひとつずつ提示することで、どんな要素に魅力を感じるゲーマーが「Rise of the Ronin」をプレイすべきなのか、明らかにしていく。

なお、レビューする上でプレイしたのは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントからコードの提供を受けた通常版(CERO Z版ではなくCERO D版)となっている。

■幕末という時代は、あのゲーム性と好相性。チグハグでも、それがカッコいい

1つ目は、“幕末”という舞台設定そのものがもたらしている魅力だ。これには「幕末は世界観的にも、ストーリー的にも魅力となる要素に溢れている」という以上の意義がいくつかあったと感じている。

本作は前述の通り、オープンワールドのタイトルでお馴染みのシステムが無数に取り入れられているが、こうしたシステムはそれぞれの作品世界に存在しても馴染むものへと置き換える必要がある。

高所から滑空できるアクションを取り入れたオープンワールドタイトルは昨今珍しくないが、本作ではそれがゲームの開発中に詳細な設計図が発見されたという阿鼻機流(あびきる)を入手することで可能になっている。本来、実用には至らなかったという阿鼻機流だが、こうして“実在の発明家が想像したもの”に落とし込まれていることで、幕末の世界で“滑空”のアクションを行うことの説得力はいや増すと言えるだろう。

弓矢のみならず、長銃、短銃、火炎放射器ほか、近接武器に匹敵するバリエーション豊かな遠距離武器を登場させられるのも、戦国時代などを舞台にしたゲームでは難しかったものだと思う。近接攻撃と遠距離攻撃をほどよく織り交ぜたバトルデザインを構築する上でも、時代設定が有効に機能していたと言える。

また、個人的には想像以上に「幕末とハクスラ要素の相性の良さ」を感じられた。本作ではプレイを続けていくとさまざまな武器・防具が手に入り、いずれも身に付けると見た目に反映される。防具は頭、胴、腕、足と部位ごとに分かれており、同一のスキルを有する防具同士のシナジーや、自分のプレイスタイルとの相性を考えつつも、基本的にはより高性能なものに付け替えていくことになるだろう。

こうした「装備の組み合わせが外見にも反映される」タイプのゲームの場合、「現状で最強の組み合わせにすると、チグハグでダサいコーディネートになってしまう」という歯がゆい経験をしてきた人は少なくないことと思う。

本作には江戸時代を通して親しまれていたであろう和風の衣服と、黒船来航以後に少しずつ浸透していったであろう洋風の衣服、どちらも防具として登場する。それらを混ぜ込ぜにしたコーディネートをしても「幕末ならば、これはこれでアリなのではないか?」と思えることが多かった。

着物にハットと革靴、洋服に足袋。いちばん強力な組み合わせを試した結果、そんなまさに和洋折衷な組み合わせになっても、「この時代としては一歩先を行くオシャレとしてアリなのでは?」などと思いながらそのときどきのコーディネートの変化を楽しむことができたのだ(もしも当時の文化を研究している人が見たら「そんな着こなしはあり得ない」と言われるかもしれないが……)。

その上で、実際に身に付けている装備の性能はそのままに、見た目だけ変更する機能もあって、こだわりのコーディネートでプレイし続けることもできる。この場合、胴に身に付ける防具だけでも、上衣、下着、下袴、帯、外衣といった部位に分かれており、より細かな着合わせにこだわることも可能だ。キャラクタークリエイトをあとからやり直せる点も含め、“浪人の見た目にこだわる”ための機能が数多く用意されているのは、案外あまり知られていない魅力のひとつではないだろうか?

こういった楽しみ方が心置きなくできたのは、本作の最初の舞台が、いちはやく欧米の文化が流入した街である横浜だったことが大きかったように思う。時計塔が街のシンボルになっているなど、西洋風の建物が数多く並んでいながらも、街の中心地や海のほうを離れれば、日本式の家屋が立ち並ぶ。行き交う人々の服装もさまざま――。

それは、幕末という時代がまとっていた“何かが変わっていくことへの期待”を象徴するような光景であり、プレイヤーにも「自分なりの楽しみ方をしていこう」という前向きな心持ちを抱かせてくれたと感じる。

江戸、京都とゲームが進むにつれて、舞台としては旧来的な文化が色濃くなっていくが、物語は幕末ならではの激動へと突き進んでいく。横浜、江戸は周辺地域も含めてオープンワールドと呼ぶに相応しい広大で探索しがいのあるフィールドになっている一方、京都のマップは比較的手狭だ。これは少々残念にも感じたが、このころには佳境を迎えた本筋のストーリー展開を追うのに夢中になっていたため、大きく興を削がれることはなかった辺り、ちょうど良いバランスだったようにも思えた。

当時の文化を反映したビジュアルで引き込みつつも、登場人物たちの魅力的なドラマへと夢中にさせる展開の絶妙さについては、後述する“3つ目の魅力”で改めて補完していこうと思う。

■シビアな剣戟アクションとオープンワールドの融合が、“アクションゲーム職人集団”のイメージを更新

2つ目に挙げたい魅力は、シビアな剣戟アクションとオープンワールドの融合がもたらしているものだ。

多くの大作ゲームのプレイにおいて最も多くの時間を要するのは戦闘であり、「Rise of the Ronin」も例外ではない。この点において、本作はTeam NINJAの開発ならではのシビアな駆け引きが楽しめつつも、過去の作品にはない間口の広さも獲得している。

本作の比較対象として最も名前が挙がっているであろう「Ghost of Tsushima」のバトルデザインは、敵の予備動作にあわせて表示されるエフェクトを目印に攻撃を受け流し、カウンターをお見舞いする「アサシンクリード」や「バットマン アーカム」シリーズなどの流れを汲むものだ。

それは、大人数の敵を相手取っても時代劇の主役であるかのような惚れ惚れする大立ち回りを(あくまで比較的ではあるが)幅広いユーザーが楽しめる一方で、アクションゲームにシビアな攻防の駆け引きを求めるユーザーにとっては、やや物足りなく感じ得るものでもあった。

操作キャラクターをまだ見付けていない状態の敵には暗殺(ステルス攻撃)を仕掛けられるなどの共通点もあるものの、「Rise of the Ronin」のバトルデザインとの差異は、なかなかに大きなものだと言える。

「Rise of the Ronin」では、敵が用いる武器とその流派の組み合わせにより攻撃モーションが無数に用意されており、ボスクラスや“手練れ”と呼ばれる強敵も含むとそのバリエーションはさらに増える。また、気力(スタミナ)の概念によって闇雲に攻めまくることはできない中で、より効率良く敵の体力を奪うための“攻防の呼吸”のようなものを捉えるのも重要だ。

敵の予備動作から実際の攻撃までに要する時間は攻撃パターンによって異なっており、ひとつひとつの流派との対峙を重ねることでこれらへの対処法をプレイヤーに学ばせ、プレイスキルの上達を促す「Rise of the Ronin」のバトルデザインは、「NINJA GAIDEN」シリーズ、「仁王」シリーズ、「Wo Long: Fallen Dynasty」を経由して得たノウハウによって構築されたものだろう。

類似するシステムを取り入れたタイトルとの差異として特徴的なのが、ガードと、パリィを発動できるアクションである“石火”が、それぞれ別のボタンに割り振られている点だ。これは、闇雲にジャストガードによるパリィ狙いを連発するのではなく「タイミングを読み切れていない攻撃は手堅くガード(または回避)して、ここぞという攻撃に対しては石火を使って捌く」といった戦い方を促すことを意図したものと思われる。

赤いオーラをまとった強力な攻撃は、ガードはできないが石火でなら弾ける。しかし、タイミングを外せば大ダメージを負うので、基本的には避けたほうが無難だ。一方、石火を積極的に決められるようになれば、相手の気力を削ぎやすくなり、大ダメージを与える“追い打ち”のチャンスも多くやってくる。また、気力の回復を早める“閃刃”の入力を攻防に織り交ぜられれば、より戦局を有利に運びやすくなる。

こういった根幹のデザインを踏まえると、本作は上達を意識したプレイをするほどハイリスク・ハイリターンな戦い方になり、乗り越えられれば緊張感と爽快感、ともに大きなものになっていく戦闘システムだと言えるだろう。

その上で、本作は決して「仁王」シリーズのようないわゆる“死にゲー”ではない。3段階の難易度選択をはじめ、上記のような“正道”以外にさまざまな“搦め手”を駆使する余地があり、自分なりのプレイスタイルで攻略していくことも可能になっている。

操作キャラクターもまた武器種ごとに流派が存在するので、なるべく敵に対して相性の良い流派で戦うように心掛ける、強敵に相対したときはアイテムをケチらずに使うといった意識をするだけでも、戦闘がある程度楽になるはずだ。

また、各ミッションでは“徒党”を組んだキャラクターへと瞬時に操作対象を切り替えることができ、これによってなるべく敵に注目されていないキャラクターを使っていくことで反撃を受けづらい立ち回りが可能。遠距離攻撃も、敵の意識がほかのキャラクターに向いているときに使うといっそう有利に立ち回りやすい。

多くの敵が、大きく距離を取れば追撃を諦めてもといた場所に戻っていくといったユルさは、リアリティを削ぐ要素だと感じるプレイヤーもいるかもしれないが、個人的には“利用できるものは何でも利用する”といった遊びの幅を広げていると捉えていい部分だと思う。ここまで書いてきたことを意識すれば、命を落とす局面は大きく減るのではないかと思う。

ミッション以外で遭遇するフィールド各地の悪党たちとのバトルは、オープンワールドの探索からシームレスに行われる。バトルはシビアでありながら、オープンワールドの探索が極めてストレスフリーなのも、ついつい辞めどきを失ってしまう楽しさをもたらしている。

敵との戦闘時以外なら、全力疾走を続けても気力は減少しない。阿鼻機流による滑空中に馬を、呼べば地面に降りることなく即座に乗馬状態に移行する。滑空からの暗殺なども含め、さまざまなアクションがスムーズに繋がっていく気持ち良さも特筆すべき点だろう。

グラフィックは現行の大作タイトルとして突出して美しいとは言えないが、一方「常時60FPS(秒間60フレーム。30フレームと比べて映像がスムーズに描画される)でアクションが楽しめるオープンワールド」にすることを優先事項として開発されたということで、これもまた上記のような手触りの良さに大きく貢献していたと感じる。

屋内の壁際での戦闘時のカメラワークや、稀に狙った対象を補足できず思ったように暗殺できない状況に遭遇する点など、隅を突けば難点も無くはない。しかし、シビアさと間口の広さを両立した剣戟アクションと、オープンワールドタイトルとしての快適さ、これらの異なる手触りをスムーズに行き来できるという持ち味は、Team NINJAの“アクションゲーム職人集団”というイメージを更新し、一歩先へと推し進めるものに仕上がっている。

■幕末志士たちとの交流は、歪ながら間違いなくゲーム体験を豊かなものにしている

3つ目に挙げたいのは、魅力的な登場人物たちとの交流が、ゲームのあらゆる要素と紐付く形で取り入れられている点だ。ゲームを通して主人公と行動を共にすることが多い坂本龍馬をはじめ、ペリーや桂小五郎、勝海舟……ほかにも、さまざまな実在した人物たちと“因縁”を深めることができる。

とくにメインストーリーに絡む登場人物たちは、誰と協力し、選択肢で何を選ぶかによって好感度が上昇する度合いが変動。サブクエストも、マップに誰と関連したエピソードなのかが表示されるので、因縁を深めたい相手に関するクエストは積極的に引き受けたくなる。ミッションで徒党を組める相手と因縁を深めると、共闘時のステータスが上昇するといった点は、筆者がプレイしてきたタイトルで言えば「ペルソナ」シリーズの“コープ”システムに近い印象を受けた。

また、探索・収集要素である“猫蒐集”なら遊郭にいる“薄雲”、各種近代装備の強化なら“飯塚伊賀七”といった具合に、ゲームとしての機能と紐付いた登場人物も存在する。何に重きを置いたプレイをするかによって、自然と絆が深まっていく相手もいるということだ。

これらに加え、意中の相手がいる場所に赴けば、コミュニケーションを取ったり、好みのプレゼントを渡すことで好感度はさらに上昇。好感度が一定まで高まれば、ロマンスに発展することもある。プレイヤーキャラクターの浪人は性別についても自由であるため、男性同士、女性同士としてロマンスを楽しむことができるのも非常に嬉しい。

こうして列挙していくと、どれほど因縁という要素がゲーム全体とリンクしているかがよく分かるだろう。実在の人物たちを感情移入しやすい魅力溢れる人物として描くという点もまた、コーエーテクモのお家芸と呼べるものとなっている。間違いなく、ゲームを隅々まで堪能したくさせる要素のひとつとして、大きな役割を担っているのだ。

激動の時代、この魅力的な登場人物たちが史実通りに次々と命を落としてしまうのがあまりに惜しい(一部の人物は条件によっては生存させるif展開もある)のだが、そんな“終わり”があるからこそ、それまでに築いたひとりひとりとの想い出は記憶に残るものになる。

この要素により、横浜、江戸、京都と物語の舞台が移ってから元の街に戻る場合、“過去の回想”という理由付けが必要になっている(やり込む上で、物語上はすでに亡くなっている人物との因縁を深められないのは、ゲームとして損失が大きいという判断があったのだろう)というのは歪な構造だと感じる。また、“倒幕派”、“佐幕派”による物語の分岐も、結局は大きな時代のうねりに対してあまり意味をなさないのは勿体なくもある。

それでも、幕末志士たちをただ物語を賑やかす存在にするのではなく、彼らとの交流を重ね、ゲームプレイに紐付く形で彼らの想いに触れた上で自分なりの選択をする体験が、「Rise of the Ronin」をとても豊かなゲームにしているというのは、間違いなく言えることだろう。

■コーエーテクモゲームスの持ち味、全部乗せ

本稿で言及してきた「Rise of the Ronin」の“3つの魅力”は、いずれもコーエーテクモゲームスというメーカーが長年に渡りノウハウを蓄積してきた要素だと言える。

幕末という時代を舞台に、史実と、実在した人物をベースとした心惹かれる人物造形、そして少しのフィクション性を交えたストーリーは、コーエーがテクモと合併する前から培ってきたものだし、アクションゲームとしての飽くなきこだわりは、テクモ時代からTeam NINJAが磨き上げてきたものだ。

また、登場人物たちとのロマンスについては、「遙かなる時空の中で」などのネオロマンスシリーズを擁する開発チーム、ルビー・パーティーが得意としてきた要素でもある。

「Rise of the Ronin」は、これらの得意とする要素をオープンワールドというゲームデザインの上に“全部乗せ”することで勝負に出た大作タイトルだったと言えるだろう。そして、それらの“強み”を推し出すことに注力するために、オープンワールドの部分は極めてオーソドックスかつ手堅く楽しめる作りになっていたと考えれば、本作がプレイヤーに堪能してほしいポイントが見えてくる。

このレビューを踏まえて「自分のためのゲームだ!」と思えた人にとって、「Rise of the Ronin」は、きっと夢中になれる逸品だ。ぜひとも自分らしい浪人としての生き様を楽しんでほしい。

(C) 2024 コーエーテクモゲームス. Rise of the Ronin is a trademark of KOEI TECMO GAMES CO., LTD. Published by Sony Interactive Entertainment Inc.


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