『くる恋』“本当の自分らしさ”を探す重厚なストーリー 宮世琉弥が不敵に笑う意味深ラスト

多様すぎるキャリア形成の選択肢に、「好きを仕事に」という広告の数々。誰かのキャリアに焦ったり、自分に向いていることがわからなくて元気を失ったりすることもあるだろう。

働く人一人ひとりが自分らしいキャリアを実現できる環境が整い始めた現代で、そういった悩みや迷いを抱えることは、珍しいことではない。ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』第2話(TBS系)では、“キャリア編”とも言えるまこと(生見愛瑠)の自分探しが始まった。先週の初回放送では、一見シンプルなラブコメものかと思いきや、まことが“本当の自分らしさ”を探していく重厚なストーリーに、「くるり」と作品への印象をひっくり返された視聴者もいるだろう。

記憶を失ったことをきっかけに自分に正直になり、勢いで会社を辞めてしまったまこと。就職活動に奮闘するも、記憶を失っているために、自己PRはもちろん、長所や短所がうまく答えられずに就職活動は難航していた(にしても、就活の面接で「短所は物忘れ」は流石にまずい気がするが)。とはいえ、記憶を失っていなくても自分のことをうまく言語化できないのはよくあることだ。就活や転職などで新しい環境に飛び込んだ経験がある人なら、まことの気持ちがより深く理解できるだろう。

仕事に悩むまことへの、男性たちの仕事観がわかるアドバイスも身に沁みる。朝日(神尾楓珠)からは「向いている仕事」を紹介され、律(宮世琉弥)からは「自分の人生を幸せにする」のが仕事だと言われ、公太郎(瀬戸康史)からは、「好きなことを仕事にしてみれば」とアドバイスされるものの、まことにはその好きなことさえ分からない。それはまことに「やりたいことがない」から。本作のまことは24歳の設定だが、これもまた、キャリアに悩む20代~30代の若者が抱えがちな等身大の悩みの一つに違いない。

就活で惨敗続きのまことを励ましてくれたのは、朝日だった。「好きというよりは向いているから」という理由で仕事を選んだ彼の「好きと才能は別だから」「この中で好きなことを仕事にしている人は、どれくらいいるのかな」という言葉に、共感を覚えた大人は多かったのではないだろうか。何がやりたいかはわからないが、まずは何ができるのか自分を知ろうと、まことは朝日と一緒にさまざまなことにチャレンジしていく。

もちろん、花が好きで花屋で働く光太郎のように、好きなことを仕事にしている人間もいる。好きなことがダイレクトに仕事にならなくても、漫画家を目指していたけれどカフェ店員としてミルクで絵を描く香絵(丸山礼)のように、別の形で「好き」を表現することだってできる。「好き」を仕事にできることは、とても魅力的だ。しかし、みんながそうである必要はないし、そうできないからといって悪いわけでもない。働く意義や目的は十人十色である。第2話では、そんな背中を優しく撫でるような温かいメッセージがふんわりと漂っていたように思う。

さらに第2話では、まことを取り巻く男性たちとの四角関係もいよいよ本格的に描かれ始めた。そして、今回は“自称・運命の相手”を名乗る律がまことに積極的にアプローチ。お金持ちでイケメン、しかもコミュニケーション能力も高めと非の打ちどころのない律だが、どうやら以前のまことは、彼の前で悪気のない嘘をついていたようだ。

リングを手がかりに自分の新しい一面を知ったまことは、自分自身についての気づきを得る。自分の「幸せそうな一面」は、意外にも他人が知っていたりするものなのかもしれない。朝日が紹介してくれた福丸醤油への就職を断ったまことは、自分の人生を支えてくれるものが人によって違うことを実感する。 「グラグラになった時に支えてくれる」ものは仕事や趣味だけではない。自分が何を幸せに感じるのかを知っているということ。それ自体が、自分を支えてくれる力強いおまじないになり得るのだ。

最後に、律が松永(菊池亜希子)と繋がっていたことや、子どもたちを巧みに利用してまこととの出会いを工作していたことが明らかになった。「大丈夫、僕は彼女を幸せにしたいんだから」と不敵に笑う律の真の目的は一体何なのか。意味深なラストで迎えた第2話だが、まことを翻弄する四角関係の行方は、どのような展開を見せるのだろう。

人は誰しも、心の拠り所を必要としている。それが何であるかを自覚することが、まことにとって新たな一歩となったのかもしれない。記憶を失う前のまことは、誰を思い、何を感じていたのだろう。第3話では、まことが「誰」に心を寄せていたのかのヒントも掴みたいものだ。まことの“心の奥底に眠っているもの”は、いつ目覚めるのだろうか。

(文=すなくじら)

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