スコープ・教育/山形県立米沢工業高校、防災に貢献する土木技術者育成

技術者をはじめ土木専門職の担い手育成に力を入れている山形県立米沢工業高校。建設環境類土木コースは、土木専門職への過去10年の就職率が9割で推移する。県内外の建設会社や道路舗装会社などで活躍している卒業生が多く、鉄道運行会社に就職するような生徒も増えてきた。授業は社会基盤工学の時間を増やし、実習や課題研究に力を入れている。教諭の後藤武志建設環境類長・環境工学科長は、社会で活躍する場を生徒に提供するとともに「防災に貢献する土木技術者の育成」を学校の役割に挙げる。
同校は1897年に県内初の工業高校として開校した。2008年度に他分野と融合した学習を行うため「類・コース制」を導入。22年度には地域の創造を持続的に担う人材育成に貢献しようと「キャリア探求」の科目を新設した。
建設環境類(全日制)は、建築、環境化学、土木の3コース。インフラや建築物を造る技術や地球と地域に配慮した環境化学を学べる。東日本大震災の被災地での復興ボランティアなどを通じて防災も学び、「個」を大切にする教育をモットーとしている。本年度で閉校になるが、25年4月に米沢鶴城高校として開校する。
インフラの計画、設計、施工方法などを学習する土木コースは、30年以上前から生徒の自主性を重視した課題研究に力を入れている。自然災害の激甚化と複合化が進み、土木技術者はさまざまな知識と、事故や災害を予測した対応が求められる。現場の安全管理に役立ち、非常時のリーダーにもなってもらえると見て、災害の調査研究や、被災インフラの復旧、魚道の効果など防災関係の調査や研究を促している。
1月26日に行われた23年度「全校課題研究発表会」では、豪雨で被災したインフラに関する調査や研究の成果を発表した3年生の女生徒が、費用などの課題を踏まえ「(地域の)思いだけでは公共性は守れない」と指摘した。発表会は1、2年生の保護者もウェブで視聴できるようにしている。22年度までには、裏山にため池がある小学校のリスク検討と小学生との学習会、砂防堰堤の役割を考察するための磐梯山噴火調査などの発表があった。
生徒はトンネルや橋梁の現場で働きたい、海外の土木プロジェクトに携わりたいなど、さまざまな理由から土木の世界を志している。求人が多いだけに後藤教諭は「ネームバリュー、給与、休みだけで選ぶと離職が増える懸念がある。自分の目標は何か、どう働いていくかを一緒に考えてあげたい」と話す。
後藤教諭は現場に憧れる生徒と、出産や育児などライフイベントが重なった場合に仕事とどちらを選ぶか話した結果、全国規模で工事を手掛けている建設会社ではなく、辞めずに働き続けやすい南関東の地域建設会社を就職先に選んでくれたという。
現場が土日休みでなくても、次の現場が始まるまでにまとまった休暇を取得できる会社や、技術者教育、キャリア形成の取り組みが充実している会社でも、社員は「教育のプロ」ばかりではないことなども教えている。受注のシェアが土木から建築にシフトしているなど幅広い人脈から得た個社の事情を伝える。「『思っていたのと違う』と生徒が感じずに済む情報の提供」を進路相談の役割の一つと捉えているためだ。
就職率が高いながらも「自分の目標に必要なら進学もあり。本人のやりたいことを明確にしてあげて、どうにかして本音を聞かせてもらう」のが重要と強調する。妻が転勤に反対したことで長く働いてきた会社から協力会社に転職した卒業生がいる。同じ会社に弟が入社するのに反対している兄と話したこともある。進路相談では、生徒、時にはその身内ともさまざまな話をすることになる。
後藤教諭は「人の信頼と技術力は違う」という考えなどから「終身雇用」の重要性を教えているという。引き抜きは名誉なことかもしれないが、引き抜かれる側への配慮はあるのか、優れた処遇を提示されたらまた会社を変えるのか。会社という枠組みの中で生きていく生徒には、「仕事も含めた人生全般」でキャリアを考えるよう伝えている。
「やる気があれば入社してからでも資格は取れる。資格試験の前に学校で教えておきたいことがある」とも考えているのだそう。働いていく上では「理不尽もある!ガマンが必要!」というメッセージや、学校と違って努力は評価されず、結果が重視されるのが社会といったアドバイスを生徒にする。
「一人だけ現場を次々に異動するのは期待されているから」「命に関わる仕事。ミスは怒られて当たり前」「結果が失敗でも無駄になる努力はない」--。個性があって、いろいろな性格の生徒がいるからこそ、生徒ごとに向き合い方を考えていくという。「助けられてきた土木への恩返し」。定年退職が近づき、後藤教諭はそう考えている。

© 日刊建設工業新聞社