【社説】イランの攻撃 報復の連鎖を食い止めよ

中東で戦火が拡大する事態は絶対に避けなければならない。イスラエルとイランは強く自制すべきだ。国際社会は結束して事態の収拾を急ぐ必要がある。

イランがイスラエルへの大規模攻撃に踏み切った。今月1日に在シリアのイラン大使館が攻撃され、死者が出たことに対する報復だ。

イスラエル軍によると、無人機170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発などが発射された。イスラエル軍は米軍などの支援で大半を撃ち落としたという。

イスラエル南部の空軍基地で小規模な被害が出た。幸い死者はいなかったが、少女1人が負傷した。

両国は1979年のイラン革命以降、対立関係にある。これまでは親イラン勢力がイスラエルとの「代理戦争」をしていた。イランがイスラエル領土を直接攻撃したのは、今回が初めてである。

国際社会はイランに、報復を思いとどまるよう働きかけを強めていた。それにもかかわらず実行したのは、保守強硬派を中心とする国内の怒りを指導部が抑え込めなかったからだろう。

イランの行為は非難に値する。ただし攻撃は抑制的だった。イスラエルの周辺国に事前通告し、迎撃できる時間的余裕を与えたことから、本格的な戦闘にエスカレートすることを望んでいないことがうかがえる。

懸念されるのはイスラエルの対応だ。軍幹部は対抗措置を取ると表明しており、反撃は不可避の見方が強い。出方によっては大規模な交戦に発展しかねない。

イスラエル国内で辞任圧力が高まるネタニヤフ首相は、戦時体制を政権の延命に利用する思惑があるとみられる。

戦闘が長期化するパレスチナ自治区ガザを巡っても、両国は緊張関係にある。ネタニヤフ政権の暴走を許してしまうと、中東が泥沼の戦闘に陥る恐れがある。

イスラエルは核兵器保有国とされ、イランは核開発を進めている。核の脅威を拡散させてはならない。

国連安全保障理事会や先進7カ国(G7)首脳は緊急に対応を協議した。報復の連鎖を止めるため、関係国には一層の外交努力を求めたい。

特に期待されるのは、イスラエルの後ろ盾である米国の役割だ。

米メディアによると、バイデン大統領はイランを非難しつつ、電話会談したネタニヤフ首相には反撃に反対すると伝えた。評価できる行動だ。今後も抑止力を最大限に発揮してもらいたい。

中東情勢の緊迫化は世界経済全体のリスクである。原油価格の高騰は、中東産への依存度が高い日本にとって大打撃となる。

日本は伝統的にイランと良好な関係を保ってきた。日本政府はイラン、イスラエル双方に中立的な立場で、事態の沈静化に動くべきだ。

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