オイシックス・ラ・大地の藤田和芳会長が「放射能汚染水」投稿で辞任の波紋(有森隆)

自ら会長を辞任したオイシックス・ラ・大地の藤田和芳氏(C)日刊ゲンダイ

【企業深層研究】オイシックス・ラ・大地(上)

オイシックス・ラ・大地(東証プライム上場)は2月22日、藤田和芳会長(77)が辞任したと発表した。

同氏はX(旧ツイッター)の個人アカウントで、東京電力福島第1原子力発電所の処理水を「放射能汚染水」などと投稿したことの責任を取った。高島宏平社長(50)は藤田氏への監督責任を取る形で2月12日~3月末の役員報酬の10%を自主返納した。

藤田氏は2月10日、Xに「本当は『放射能汚染水』なのにマスコミはその水を『処理水』と呼んでいる」と書いた。12日にもXに「東京電力は福島原発の放射能汚染水を海に流し始めた。今ある汚染水を海に流し終えるまでには、さらに20年かかる」という趣旨の投稿をした。これは現在、削除されている。

投稿が波紋を広げたことを受け、藤田氏は13日、「『汚染水』という表現は風評被害を拡大する恐れがあるため、『処理水』に訂正する」と釈明したが、関係者の反発は収まらなかった。

「オイシックスは有機・無添加野菜を販売しているが、『汚染水』で栽培されているのか」との風評が広がった。同社は15日、藤田氏の投稿について謝罪のコメントを発表した。「不必要な不安をあおり、根拠のない風評被害に発展する可能性がある」と指摘。自社の考えとは全く異なり「多大なるご迷惑とご心配をおかけし、深くおわび申し上げる」とした。

オイシックスは懲罰委員会を開き、審議の結果、3月末までの停職処分とするとの結論に至ったが、藤田氏本人から「会長を辞任したい」との申し出があったため高島社長が辞表を受理する形で事態を収拾した。

藤田氏は2017年に旧オイシックスと統合した有機食品を販売する大地を守る会の創業者。17年から統合会社(現オイシックス・ラ・大地)の代表取締役会長を務め、22年からは取締役を外れ、代表権を持たない会長となっていた。

藤田氏の「放射能汚染水」発言は、マスコミが右へ倣えで政府の意向に沿って「処理水」と報じることが腹に据えかねたのかもしれない。同氏の原点は「反権力」だからである。

上智大では新聞部主幹、大学当局を糾弾

1947年、岩手県生まれの団塊の世代。上智大学法学部に入学したが、多くの大学が紛争の嵐の中にあり、上智でも全共闘の学生によるバリケード封鎖という時期があった。藤田氏は新聞部に入り、2年で主幹。学生の立場に立って大学当局を糾弾したため、大学側の強い反撃に遭い、新聞は廃刊に追い込まれた。70年卒業後は建築系の出版社に勤務した。

75年8月、学生運動指導者の故・藤本敏夫氏とともに、有機農産物の普及を目指す団体、大地を守る市民の会を立ち上げた。77年に同団体を株式会社に改組し、大地を守る会と名付け、社長に就任。

大地を守る会は単独で株式公開を目指していたが、2016年12月、オイシックスとの経営統合を発表。統合を選択した理由について藤田氏は「大地を守る会はカタログ販売、オイシックスはEC(ネット通販)。大地はネット化で数年遅れている」ことを挙げた。

統合して発足した新会社(のちのオイシックス・ラ・大地)は、オイシックス出身の息子ほど年が離れている高島宏平氏を社長にした。持ち株比率に大きな差があったからで、高島氏が12.75%で筆頭株主、藤田氏は2.72%で7位株主(23年9月末時点)だった。

藤田氏は会長に就任したものの経営の最前線からは外れた。さらに、「放射能汚染水」投稿で会長の座も追われた。

見方を変えてみよう。藤田氏は経営者のマスクを捨て、若き日の反権力の素顔に戻り、社会活動家として再出発できるのだから悔いはないだろう。 =つづく

(有森隆/経済ジャーナリスト)

© 株式会社日刊現代