小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=125

 この雑事をうまく裁くには独りでは無理である。娘は勉強が忙しいと言う。お手伝いは、少し余分な仕事を命ずると、すぐに暇を取りかねない。店の小僧ときては、口がすっぱくなるほど説明しておいても、二つに一つはへまをする。結局、私が自分でやるより他はない。時には憂さ晴らしに、どこかで思い切り散財し、遊んでみたくもなるのだが、誘い合う友人もいない。ふっと、妻がいたら、と思ったりすることがある。

 秋野朋子から便りがあった。突然お邪魔し、失礼しましたという礼状だった。間もなく、もう一通配達されてきた。次のような文面だった。
 ――貴男が新聞に発表された亡き奥さんを詠んだお歌を拝見して、じぃんと胸を打たれるものがありました。あれほど想われて逝った奥さんは、幸せでしたね。でも、あのように詠まざるを得なかった貴男の心境を察すると、たまらない気持ちになります。私にできることがあれば、お手伝いでもと思うのですが、友人と共同で営んでいる洋裁仕事も案外忙しくて、またお邪魔したいと思いながらも、ご迷惑じゃないかと考えたりして……
 あの日は、偶然、吉本さんともお会いして驚きました。あの人、とても茶目っ気があって話し上手だから、ついほだされて、はしたないこと言ったりして、ほんとにごめんなさいね。あれが私の本性だと思われると恥ずかしくなり、少し後悔しております。どうぞお許しくださいませ。暗かった私の心に光が差し込むように楽しい一日でした。
 同僚のみよ子は、この頃の私はとても若やいでいる、きっといいことがあるんじゃない、なんてからかうんです。もし、私にそうした明るさが戻ったのだとしたら、貴男と吉本さんのお陰です。そのうち、みよ子と一緒にお邪魔できたらと思っています――
 私は、秋野朋子から二通の手紙を貰いながら、未だ返信も出していないし、折を見て一度招待してやりたいと考えていた。以前、和子が十八歳の誕生を祝うパーティーを催したいと言っていた。来月の二〇日がその日になる。帰宅した娘に、私はそのことを話してみた。
「そうなの。ママイの一周忌も済んだし、カズの十八歳の誕生日はうんと盛大にやらなくっちゃっていう友達がたくさんいるの。ママイの病気で長いこと祝ってもらえなかったから、何回分も一遍に祝ってやるって」
「そりゃいいことだ。場所はどこにするかな」
「みんな、家に来るって」
「サーラのタッコ(広間の寄木床板)が剥がれないかな。お前いつかパパイの友達が飲んで踊ったら、嫌な顔してたけど、今度はいいのかい」

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