宿泊業の人手不足慢性化 道後温泉、休み拡大や賃上げで待遇向上 今春新入社員大幅増も

 宿泊業界で人手不足が慢性化している。愛媛労働局の集計では、2013~22年度の新規求人数に対する就職人数は10~20%台で推移。全国的な知名度を誇る温泉地、松山市道後地区も例外ではない。人工知能(AI)やロボットを活用した生産性向上は重要だが、ホテルや旅館の「おもてなし」は人の心が伴ってこそ。苦境を打開するため、一部の事業者は休館日を多数設けたり、大幅な賃上げをしたりして人材獲得を目指し、成果も表れ始めている。

 7日、道後プリンスホテル(松山市道後姫塚)の入社式。高卒を中心に過去最大規模という新入社員12人が背筋を伸ばし、経営陣の言葉に耳を傾けた。河内広志会長は「生き残りをかけた採用活動だった。この人数は奇跡だ」。

 同社は、5年ほど前から夕食の提供数を従来の約3分の2に縮小。人手不足を理由に夕食なしの宿泊プランで対応せざるを得ず、売り上げを逸し続けている。採用も振るわず、ここ数年は求人10人に対し、入社は3~5人にとどまった。

 こうした状況を受け採用活動を強化した。自社を、社会人としての人間力を磨ける「専門学校」だとアピール。若者の成長と夢を応援する姿勢を打ち出して県内の高校などを回ったことが、将来ビジョンがまだ明確でない生徒らに響いた。

 加えて、数年前から設けている連続休館日を拡大。閑散期を選び、今年は2~5日間の連休を計55日間設定した。「宿泊施設イコール年中無休」という業界の常識と異なる施策が「先々の予定が立てやすい」とスタッフや就活生らに好意的に受け止められたようだ。

© 株式会社愛媛新聞社