森七菜、苦しい時期から脱却できた大自然での撮影を振り返る 長澤まさみから受けた影響も

米津玄師「Lemon」、宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」など数々のアーティストのMVを手がける山田智和の初長編監督作『四月になれば彼女は』は、『君の名は。』のプロデューサーや、自身の小説を自ら監督・脚本を務め映画化した『百花』などで知られる川村元気の同名小説が原作のラブストーリーだ。物語の中心となるのは、佐藤健演じる精神科医の主人公・藤代俊と、藤代との結婚を直前に控えて謎の失踪を遂げる、長澤まさみ演じる坂本弥生。そんな2人を繋ぐ存在が、藤代が10年前に交際していた初恋の女性で、世界中を旅しながら藤代に手紙を送る伊予田春だ。

キーパーソンとも言える春を演じたのは、2023年7月期の『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)で月9初主演を飾ったことも記憶に新しい森七菜。悩みを抱えていた時期に変化のきっかけになったというボリビアやチェコなど海外での撮影や、影響を受けたという長澤まさみとの共演、そして自身にとって大切な存在だという川村元気への思いについて語ってもらった。

「大自然を見ていると、『あ、なんか大丈夫だな』と思えた」

ーー森さんは今回の『四月になれば彼女は』でボリビアやチェコなど10カ国で撮影を行ったそうですね。

森七菜(以下、森):特に映画の中でも印象的に描かれているボリビアのウユニ塩湖はものすごい絶景で、本当に感動しました。ただ、食べられるものが少なかったり、標高が高いのですぐに息が切れてしまったりして、環境的には結構つらくて。そういうことを乗り越えた先にあの絶景があったので、救われた気がしました。

ーー『アナザースカイ』(日本テレビ系)で再びウユニ塩湖を訪れた際に、『四月になれば彼女は』の撮影の頃はかなり落ち込んでいる時期だったという話をされていましたよね。

森:落ち込んでいた時期でしたね。捻くれていたというか、カメラの前に立つと素直に喜びを感じられなくなってしまっていたんです。それまでは、「自分はこの人だ!」と思ってお芝居ができていたんですけど、そう思えなくなってしまって、どうしてもお芝居が不自然になってしまって。自分自身もそれじゃダメだとわかっていたし、ちゃんとやらなきゃいけないのに苦しい時期でした。

ーー『四月になれば彼女は』はそんなタイミングでの撮影だったと。

森:撮影に入ったときも、“いまカメラの前に立っている”と思ったらできないことがあるのはわかっていたので、ある程度割り切ってやったところもありました。特に海外のパートは、常にカメラが回っていましたし、ずっと1人だったので。でも監督の山田(智和)さんは、それを理解してくれた上で、カメラが回っているのか回っていないのかわからない状態で撮影してくれていたんです。それは自分にとって変化のきっかけになりました。

ーー海外ロケで1人芝居となると、また別のプレッシャーもかかってきますよね。

森:みんなの旅費が私のお芝居にかかっていると思うと、結構プレッシャーでした(笑)。でもそんな中で、それぞれの国の絶景が自信やパワーを与えてくれました。あの大自然を見ていると、「あ、なんか大丈夫だな」と思えたんですよね。私が感じたことは、映画を観ていただいた方にもきっと伝わると思います。

ーー佐藤健さん、長澤まさみさんという先輩お二人との共演はいかがでしたか?

森:ビジュアルで三分割にしていただいたりして、すごくありがたいなと思って。佐藤さんも長澤さんも、本当に優しいんですよね。偉大な方たちなのに、そう感じさせない空気があるんです。お芝居する上でもいろいろ施してくださりました。

ーー森さんが演じた春は、佐藤健さん演じる藤代と同じ大学に通う後輩で、初恋の相手でもあります。

森:私のほうがだいぶ後輩ですけど、佐藤さんのおかげで同じ大学生としていられた気がします。でも不思議な時間でしたね。テレビとかでよく見ている佐藤健さんと一緒に大学生を演じているなんて(笑)。

ーー全然違和感はなかったですよ。佐藤さんも森さんについて、「彼女の笑顔を見ていると自然と自分は藤代になれました」とコメントされていましたね。

森:ありがたいです。けど褒めていただくと怖いですね(笑)。

ーー(笑)。大学のシーンは初日からほとんどがアドリブだったそうですね。

森:そうなんです。正直、最初は何を話せばいいのかわからないときもあったんですけど、大学の先輩と後輩として初めて出会って、だんだん仲良くなって恋に落ちるという関係性なので、その設定をうまく取り入れながら演じていました。

ーーそういうときは事前にある程度どういうセリフを言うか準備していくものなんですか?

森:事前に考えて固めていっても、現場で変わったりすることが多いので、私はあまり準備をしないタイプです。自分的にも実際に現場にいたほうがいろいろとアイデアが出てくるので。今回はさすがに不安もあったんですけど、ちゃんと映画になっていたので安心しました。

ーーアドリブがない場合の役作りはいかがですか?

森:普段からあまりがっつり役作りみたいなことはしないですね。もちろん容姿だったり見た目はみんなで考えて整えていきますが、気持ちの部分に関しては、監督が困らないくらいの最低限だけを作って、あとは現場で柔軟にやっていくことが多い気がします。

長澤まさみは「私にとって最高の先輩」

ーー森さんは2017年のデビューから今年7年を迎えます。これまで名だたる監督たちの作品に出演されてきましたが、ご自身の中で成長している実感はありますか?

森:自分自身のことではあまり感じることはないのですが、年齢を重ねるにつれて演じる役柄が変わってきた実感はあります。ちょっと前までは、制服を着ていじめられているような役が多かったんですが、最近はストッキングを履くような役も増え始めていて。今回は大学1年生の役だったので、それまで積み上げてきたものが1回崩れた感じがするんです。それこそ昔は長澤さんのことを“大人”という遠い存在として見ていたと思うのですが、長澤さんにちゃんと憧れることができるようになったというか、ちゃんとしないといけない歳になったなと。まさみ先輩の背中を見つつ、ちゃんとした女優さんになりたいなという意識が芽生えるようになりました。

ーー長澤さんとはこの作品のあと、Netflix映画『パレード』でもご一緒されていますよね。

森:そうなんです。『四月になれば彼女は』の撮影のときは、まだ『パレード』の話は決まっていなくて。なので、もうしばらくお会いすることができないなと思いながらお別れしたんですけど、その後がっつりお芝居できる機会があって嬉しかったです。長澤さんにはご飯に連れて行ってもらったり、一緒に古着屋さんに行ってお洋服を買ってもらったりして。本当に優しい先輩ですね。

ーー長澤さんのどういうところに惹かれますか?

森:長澤さんって、本当にすごい人じゃないですか。ご本人もそれは認識されていると思うんですけど、それを全く感じさせないんですよね。自分のすごさを振りかざさないというか。普段からずっとそうで、それがすごくカッコいいなと。私が長澤さんの立場だったら、たぶんそうはならないと思うので(笑)。

ーー(笑)。

森:長澤さんは本当にストイックというか、役に対しても監督や共演者に対しても、ものすごく誠実さがあるんです。現場でも非の打ち所がないというか。ご本人がどう思っているかはわからないですけど、私から見たら長澤さんは常に最高の状態で、それでいて周りを引っ張ってくれる。それを何年も続けられていると考えると本当にすごい方だなと。初心を忘れない長澤さんからは、私自身、ものすごく影響を受けました。

ーー女優の先輩として、長澤さんから何かアドバイスをもらったりすることはあったんですか?

森:「あのシーン良かったよ」とか、とにかく私のことをすごく褒めてくださるんですよね。それでいて、細かいところに関して「ここはこうしたほうがいいよ~」みたいに冗談めいた感じで言ってくださるんです。その言い方にも優しさが詰まっていて、本当に学ぶことがたくさんありました。自分は褒められて伸びるタイプなので、私にとって最高の先輩ですし、本当に大好きな先輩です。

ーー映画では、大切な人の存在が大きなテーマになっています。森さんにとってそういう存在や忘れられない出会いはありますか?

森:たくさんいるのですが、私にとっては川村元気さんです。高校生のときに川村さんに見つけていただいてから、ご一緒するのはこの作品で6度目で。最初は川村さんが企画・プロデュースを務めた『ラストレター』に呼んでいただいたのですが、当時の私は何も持っていませんでした。今回の『四月になれば彼女は』もそうだったのですが、川村さんは私にとって変化のきっかけになるような作品を常に託してくださるので、本当にありがたいですし、私も毎回ちゃんと返していけるようにしたいなという思いは常に持っています。今回は山田さんの監督作品なので、山田さんが撮りたい作品にしたいなとはもちろん思いつつも、どこか川村さんの顔がチラついていたんですよね。いつもはふざけて喋っているんですけど、心の中ではちゃんとそういう恩返しをしたいという思いを持っていて。私の成長の節目を作品に収めてくれるのが川村さんな気がします。こういうことは普段は言わないんですけど、ちゃんと感謝しているということは伝えたいので、この記事を読んで気づいてくれたら嬉しいです(笑)!
(文=宮川翔)

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