【社説】衆院島根1区補選告示 「政治とカネ」本気度を競え

 衆院の島根1区など3補欠選挙がきのう告示された。政治資金パーティーを悪用した自民党派閥の裏金事件が発覚後、初の国政選挙となる。

 いずれも自民党が議席を有していたが、東京15区、長崎3区で不戦敗に追い込まれた。唯一候補者を擁立した島根1区で、立憲民主党との直接対決となった。両党は最重要選挙区と位置付ける。

 最大の争点は裏金事件で増幅した政治不信を解消する取り組みである。岸田文雄首相が今国会中に衆院解散・総選挙に踏み切る可能性も指摘される。補選の先を見据え、与野党は政治改革の具体策と実行への本気度を競うべきだ。

 島根1区補選は細田博之前衆院議長の死去に伴い実施される。元官僚の自民党新人と立憲民主党元職が立候補。公明党は自民の新人を推薦し、共産党は候補者擁立を見送り、立民の元職支援に回る。

 細田氏は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側との接点を問題視され、組織的な裏金づくりが発覚した安倍派の前身派閥で会長を務めていた。

 島根は竹下登元首相らを輩出した自民党の牙城。かつてない逆風にさらされた自民の新人は第一声で「政治改革を後押しできる立場になりたい」と力を込めた。

 対する立民の元職は「ここで勝てば岸田政権に大打撃を与える」と訴えた。2007年参院選島根選挙区で自身が自民の前職を破り、政権交代へつながった再現を目指す。

 告示前から両党は幹部を相次ぎ投入し、総力戦の様相を見せる。一方、買収など公選法違反事件による議員辞職を受けた東京15区、裏金事件での議員辞職に伴う長崎3区では野党がしのぎを削る。自民党の不戦敗は、選挙によって表される民意を隠すような対応ではないか。

 有権者が論戦で聞きたいのは、「政治とカネ」問題を断つ具体的な手だてと、裏金事件の真相である。

 直近の共同通信社の全国電話世論調査によると、裏金事件の実態が「十分解明されていない」との回答が93・3%に達した。国民は自民党の処分を含め、裏金事件にけじめがついていないと考えている。

 後半国会の焦点である政治資金規正法の改正にどう取り組むのかが問われる。連座制の導入や政策活動費の廃止など他党の具体案は出ているのに、自民党は独自案の作成に後ろ向きだ。論戦を通じて国民に選択肢を示し、有権者の審判を仰ぐべきだろう。

 自民党が島根1区を落とし全敗となれば、内閣支持率が低迷する首相の求心力がさらに失われるのは確実だ。9月の総裁選で再選を目指す政権運営や衆院解散戦略にも影響しよう。ただ自民、公明両党が多数を占める状況に変わりない。野党には改革実行に向け、まとまって与党と対峙(たいじ)する覚悟が求められる。

 少子化対策や防衛力強化の是非など争点は他にもある。それらが政治への信頼を欠いたまま進められてはならない。どうすれば政治改革が進み、信頼回復につながるか。有権者には考え抜いて1票を投じてもらいたい。

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