電撃引退のJリーガー島川俊郎、現役復帰を完全否定「100%ない」「筋が通らない」 今伝えたいメッセージとは?【独占インタビュー】

現役引退した島川俊郎(27番)は「徳島は1つになって進もうとしている」と語る【写真:Getty Images】

自身の引退で「憶測を生んでしまったのなら申し訳ない」

プロ16年目を迎えたMF島川俊郎は、今季移籍した徳島ヴォルティスの一員として、開幕全7試合に出場していたなか、4月1日に現役引退を電撃発表した。吉田達磨監督の解任、島川の引退、DF西谷和希の契約解除――。激震が走ったチームが再び動き始めたなかで、島川は現役への未練を完全否定しつつ、次なるステージで描く愛車での日本一周への思いを口にする。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史/全2回の2回目)

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今季の徳島は、昨年8月に就任した吉田達磨監督が続投する形でスタート。島川も柏レイソルユース、ヴァンフォーレ甲府時代に師事した恩師を追いかけ、チームに加入した。

そのなかで、チームは開幕3連敗を含む1勝1分5敗と3月末の時点でJ2リーグ最下位に沈んだ。すると、3月31日に成績不振により、吉田監督の解任と岡田明彦強化本部長の辞任が決定。翌4月1日に増田功作ヘッドコーチが暫定監督に就任することが発表されたが、その2時間後には島川の電撃引退がリリースで伝えられた。

徳島の混乱は、昨季41試合に出場し、開幕2試合にも起用されていた中軸の西谷が4月4日に双方合意のもとで契約解除したところまで続いた。すでにチームを離れ、33歳での現役引退を決断した島川は、「今、せっかく徳島がまた1つになって進もうとしている最中なので、そこをほじくり返すようなことは絶対にしたくない。徳島のことには触れないようにしています」と、強い意志を示す。

一方で、1学年上の元日本代表FW柿谷曜一朗が4月6日、自身の公式インスタグラムに投稿した582文字に及ぶ長文メッセージには思うことがあったという。柿谷は自身が3月30日のJ2第7節ザスパ群馬戦(0-1)後に残した発言により「誤解させてしまった」と謝罪するとともに、「批判はいくらでも受けます、それをチカラに自分自身成長し徳島ヴォルティスのチカラに少しでもなれるようにこれからもっと頑張って行きたいと思います」(原文ママ)とファン・サポーターらに訴えかけたのだ。島川も「曜一朗くんの影響力は大きなものがある」と語る。

「僕とは違って、曜一朗くんはリスペクトしかないキャリアを送ってきた選手。周囲の反応が我慢できる範囲を超えてしまったんだろうなと推測します。僕の引退が引き金になって憶測を生んでしまったのなら、申し訳ない。でも、そのあと曜一朗くんとは何度もLINEでやり取りしたし、15歳から知っている仲なので、僕は良好な関係を築けていると思っています。SNSは本当に難しくて、自分の思っていることが正しく伝わらないこともたくさんあるので、ああいう発信は本当に勇気のあるものだと感じました」

島川は今後、愛車のゴードンミラーで日本一周に臨むという【写真:本人提供】

サッカーを通じて巡り合う人との縁に感銘

島川自身、誹謗中傷に関しては「もう触れたくない」「その人たちには何も届かない」と多くを語らない。「あと2~3年やれるのかなと頭の中にあった」というキャリアも、今季がスタートした時点で予期していなかった形でピリオドが打たれることになったが、「現役復帰は100%ない」と完全否定する。

「2週間前に徳島の選手たちの前で『引退します』と挨拶させてもらって、これだけチームにも迷惑をかけて、それで『現役復帰します』は筋が通らないし、僕はできない。そんなに軽く考えての決断ではないです」

島川は柏ユースで育つもトップチームに昇格できず、ベガルタ仙台、東京ヴェルディ、ブラウブリッツ秋田、レノファ山口FC、栃木SCと渡り歩き、17年に恩師の吉田監督が率いるヴァンフォーレ甲府で27歳にしてJ1リーグ初出場を果たした苦労人だ。「楽しいサッカーは小学生の時で終わり」「サッカーが本当につらかった」と苦笑する。

「どのチーム、どのカテゴリーにいても悩みはありました。小さな幸せや達成感の積み重ねでここまでやってきましたけど、本当に苦しくて。でも、サッカーをしてきて本当に良かったのが、人との縁です。30歳前後から、『サッカーをやってきたのは、この人たちに会うためだったのか』と思うことが増えて、本当に縁を感じました。サッカーの世界だけで生きてきたので、もっといろんな世界の人たちと出会いたいし、知りたい。新たなスタートを切ろうと思っているので、準備を進めています」

島川は引退を報告するインスタグラムの投稿に、「これから僕は愛車のゴードンミラーで日本一周します!」と綴っている。車中泊しながらの日本一周は、「2~3年前から引退後はしたいと思っていた」という。

「(2020年の)コロナ禍にインスタグラムを始めました。外出自粛の当時は家の中で筋トレをして、家の周りを走る以外は本当に暇で。ピアノと歌うのは趣味だったので、(SNSに)載せてみようかなと思ったら大きな反響がありました。車中泊やキャンプもその中の1つ。自分が好きで始めたことが思いもよらない反応をいただけて、一種の達成感のようなものも覚えました。自分を知らない人にも知ってもらえるチャンスになったので、あのコロナ禍の時期は1つの転機だったと思います」

島川の生きるエネルギーとなる周囲からの応援

最後に、島川は「応援してくださっていた方々への感謝は伝えたい」とメッセージを送る。

「引退して、もう何十年も会っていない同級生が毎試合チェックしていたと連絡をくれたり、僕に期待して、僕のサッカーを観ることを楽しみにしてくださっている人たちがこんなにもいたんだと感じました。その楽しみをなくしてしまったこと、そしてきちんと挨拶もできず、申し訳ない。こんなに自分を応援してくれるなんてと、思えて辞められたことは、これから生きていくエネルギーになっているので、『ありがとう』と伝えたいです」

島川俊郎、33歳――。どこまでも真面目で、自分を貫いた男はスパイクを脱ぎ、新たな人生を歩み出す。

[プロフィール]
島川俊郎(しまかわ・としお)/1990年5月28日生まれ、千葉県出身。柏U-18―仙台―東京V―秋田―仙台―秋田―山口―栃木―甲府―大分―鳥栖―徳島。J1通算104試合・2得点、J2通算23試合2得点、J3通算78試合4得点。27歳でJ1初スタメンを掴んだ遅咲きのボランチ。柏アカデミー、甲府時代に指導を受けた吉田達磨監督の下で戦うべく、今季から徳島へ。守備のユーティリティーとして開幕から7試合すべてに出場していたなか、4月1日に電撃引退を発表した。今後は愛車ゴードンミラーで日本一周をする予定。(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)

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