改めて知ったオーガストの恐ろしさ…松の大木を根こそぎへし折る強風に心も折られる【羽川豊】

大事なパットがひとつ入っていれば…(C)ロイター

【羽川豊の視点 Weekly Watch】

この時季、鮮やかな新緑とアザレアがきれいなオーガスタは穏やかな天候の日ばかりではありません。昨年のマスターズは2日目の嵐で17番ティーイングエリア横の松の大木が3本、根こそぎ倒れ、今年は初日から風速10メートル以上の強風が吹き荒れました。

2月のジェネシス招待で2年ぶりに優勝した松山英樹は好調を維持し、準備万全で現地入り。2度目のマスターズ制覇へ向けて自分自身に期待していたはずです。その松山もオーガスタの強風にやられました。

このコースはテレビで見るより打ち下ろし、打ち上げなどのアップダウンが激しく、ホール脇にある高い松の木やクリークなどの影響もあって風向きが一定ではありません。

例えば、アーメンコーナーにある12番(パー3)や13番(パー5)は樹木に囲まれたグリーン上で風が巻いていたり、クリークが風の通り道になっている。普段でもボール位置とグリーン上では風向きや強さが違うため、10メートル以上の強風が吹けば打ち出す方向や落としどころに迷う。キャリーでグリーンを大きくオーバーしたり、逆に15ヤード以上もショートして「なぜだ?」という表情を見せる選手が何人もいました。

完璧なショットを打ってもスコアを落とせば、ただでさえ難度の高いコースで平常心を保つことは容易ではありません。そんな時、予選ラウンドのS・シェフラーのように長いパットが入ったり、チップインバーディーがくれば、ひと呼吸置けます。気持ちを切り替えて、再び目の前の一打に集中し、チャンスが待てるものです。

しかし、ボールが風に押されたり、流されたりする中、ナイスショットの手応えがあってもスコアに結びつかないホールが続けば、やがて心は折れます。私は1982年から2年続けてマスターズに出場し、2年目は激しい雨にたたられました。プレー中断やサスペンデッドにより集中力の維持に苦労したことを思い出します。

特別招待で初出場の久常涼にとっては過酷な条件下でのプレーとなりました。予選落ちしたことで、来年は自力で出場権を獲得する気持ちが、より強くなったことでしょう。

そんな大会を制したシェフラーは、ショット、パットとも安定し、世界ランキング1位の実力を見せつけました。メジャータイトルをいくつ手にするか楽しみな選手です。

(羽川豊/プロゴルファー)

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