「春が行く」前に

 〈窓あけて見ゆる限りの春惜しむ〉高田蝶衣(ちょうい)。お天気キャスターの草分け、倉嶋厚さんはエッセーにこう書いた。〈梅から桜までは、花が咲くたびに「春が来た」と感じたのに、その後のヤエザクラ、ハナミズキなどの開花は「春が行く」という感じが強まります〉▲春を惜しむのはいささか気が早いが、いつの間にか桜木は緑の葉を付けている。そのうち「春が行く」時が訪れるのだろう▲同じく“春”は行ってしまうのかと、苦い思いでその記事を読んだ。11日の1面で、衆院長崎3区補選を巡り、選挙区内にある離島が抱える課題を挙げている▲漁業では、遠く離れた本土への魚の輸送費が悩みだが、国境離島新法によって費用が補われてきた。その法律は10年間限りとされ、2027年3月末に期限を迎える▲十分なわけではないが、輸送費の支援は離島の第1次産業に差した陽光だろう。法の期限が迫り「春が行く」のを惜しむ前に、期限を延ばすのに力を注いだりと、政治の出る幕は山ほどある。選挙戦で声を張って語られるべき課題だろう▲春の日永にちなんだ「春永(はるなが)に」という言葉がある。「またそのうちに」といった意味らしい。離島の課題を語るのは次の衆院選でまた…。候補者を立てるのを見送った政党は「春永に」と告げているようでもある。(徹)

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