能力を高めるためのリハビリ医療で「FIM」をどのように使うのか【正解のリハビリ、最善の介護】

ねりま健育会病院院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

【正解のリハビリ、最善の介護】#24

「機能障害」や「能力障害」の回復の指標として使われるのが「FIM(機能的自立度評価法=している能力の指標)」と「BI(バーセルインデックス=できる能力の指標)」です。前回に続き、リハビリ治療におけるFIMの使い方について詳しく解説します。

リハビリの進行状況を把握できるFIMは「セルフケア」と「交流・社会的認知」で評価します。「セルフケア」の評価は以下に挙げた13項目で行い、リハビリを開始して最初の1カ月でほぼすべての項目が向上しますが、回復パターンにはある程度の傾向があります。

セルフケアにおいて1カ月で改善しやすい動作(項目)は、食事、整容、上半身更衣、排尿、排便、ベッド移乗です。次に、下半身更衣、トイレ移乗、トイレ動作が回復してきますが、重症例では介助がなくなるまでに3カ月以上を要します。

最も回復に時間を要するのが、入浴洗体、風呂移乗、歩行、階段昇降の項目で、重症例では介助がなくなるまでに6カ月以上を要することも珍しくありません。

これらの回復パターンを知っていると、回復経過が順調なのかが理解でき、今後の在宅復帰計画のめどが立ちます。自宅退院の第1次目安は、トイレ動作と歩行が自分でできるようになることです。入浴移乗、洗体、階段昇降は、介護保険によるヘルパーなどの介助サービスやデイサービスを利用すれば、自宅での生活は成り立ちます。

「交流・社会的認知」の評価は、理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶の5項目で行います。これらは超高齢による認知機能の低下や、失語症、精神・高次脳機能障害によって低下します。超高齢で重度の認知症の場合は、5項目すべてで介助が必要となり、退院時の回復が望めないこともまれではありません。

左脳損傷による失語症の場合は、理解と表出が6カ月の時点で介助が必要でも、就労年齢にあたる15歳以上65歳未満の方は年単位で毎年回復し、3年ほどで介助が不要になるケースも少なくありません。失語症では、社会的交流、問題解決、記憶の障害は言語より回復が良く、3カ月ほどで回復して介助が必要ではなくなる傾向があります。

一方、右脳損傷による精神・高次脳機能障害では、言語は良好でも社会的交流や問題解決の回復が難しく、自宅退院後に増悪するケースがありますので注意が必要です。これは自宅復帰後に脳への情報量が莫大に増加するためです。ですからこうしたケースでは、信頼できるリハビリ主治医との退院後の連携が重要になります。感情障害が強く生じた時は内服治療を要することもあります。

■チームの連携が重要

介助がなくても自宅退院ができるかどうかの判断材料になるのはFIMの項目の点数です。このため、これらのFIMの項目を誰が治療するのかが大切です。主治医は、それぞれの役割をチームのメンバーに振り分け、毎月の目標を立てます。ほぼすべての動作に介助が必要な状態から、できる限り介助量を減らす。そして、見守り(準備のための援助が必要だが手を触れなくてもできる)、修正自立(補助具があればできる)、自立(何も使用せずにできる)としていく。それを実践するのがリハビリチームなのです。

主な役割は以下のようになります。看護師は、食事、排尿、排便、入浴動作などの生活の必須動作。理学療法士は、ベッド・トイレ・風呂の移乗、歩行・階段などの移動と移乗動作。作業療法士は、整容、更衣、トイレ動作、問題解決などのADLと、身だしなみ、意思の疎通。言語聴覚士は、理解、表出、社会的交流、記憶。それぞれ該当項目を担当して回復を目指すのです。

当然、すべての職種がすべての項目に関わる場面が出てきます。そのために副担当も必要です。とりわけ、重要な役割を占めるのが看護師です。主な役割で挙げた4項目以外の14項目すべてに関わるからです。

また、作業療法士も、副担当として主な役割の5項目以外の残り13項目を担当します。理学療法士は、主な役割の5項目以外は、整容、更衣、入浴動作、トイレ動作、排尿、排便の7項目に副担当として関わります。言語聴覚士は、主な役割の4項目以外は、食事と問題解決の2項目に関わっています。

こうしたリハビリ治療連携を「チーム医療」と呼びます。主治医は、どの項目がうまくいってないのか、どうすればうまくいくのかを考え、患者さんを回復させるためにチームをまとめて具体的に指示していくことが主な役割になります。

ですから回復期リハビリ医療は、主治医に確認すれば、治療方針、現状、今後のゴール、再発予防と在宅調整がわかる仕組みになっているのです。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)

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