#KTちゃん、“人をディスらないラップ”でHIPHOPに新風も「周囲がやってなかっただけ」

(音楽活動は)アーティスト活動に注力することを宣言した#KTちゃん【写真:荒川祐史】

新世代ラッパーの#KTちゃん

ABEMA『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』に出演し、現在はMCBATTLE、アーティスト、バラエティー番組などマルチに活躍している新世代ラッパーの#KTちゃん。3月28日にはMC バトル「NEO GENESIS」に出演。MCBATTLEを卒業し今後の音楽活動はアーティスト活動に注力していくことを宣言、アジア進出やデジタルEPのリリース、そして今秋のワンマンライブ開催を発表した。そんな#KTちゃんに今後について話を聞いた。

◇ ◇ ◇

――MCBATTLEの卒業を発表しました。ラップを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

「最近のJ-POPは歌の中にラップが入っていますよね。ヒップホップのゴリゴリのラップっていうよりは、曲の中に自然と入ってるラップがカッコイイなと思ってそれを見よう見まねで始めたのがきっかけです」

――そこからなぜ『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』(ABEMA)に参戦することになったのでしょうか。

「フリースタイルを始めたのは高校生RAP選手権が初めてでした。選手権に参加してみようと思ったきっかけは高校3年間が新型コロナ禍で行事系がなくなってしまって。高校生らしい思い出がないなというときに見つけて、思い出になるんじゃないかってノリでスタートしました」

――当時の反響は想定内でしたか。

「信じられなかったですね。高ラも予選会があったんですけど、残り2週間でフリースタイルの練習を始めて参加しました。そうしたら本戦も決まってしまって。そこでフィメールラッパーの長瀬ちゃんと戦いました。正直、自分がどれだけカマせたのか終わった瞬間は分かりませんでした。でも終わってからXで調べてみたら『KT』ってたくさん出てきて。それで『自分は爪痕残せたんだ』って。そんな感覚でした」

――周囲からの反応もありましたか。

「学校にもラップ好きな子がたくさんいたので教室にのぞきに来てくれたりとか、そういうところでヒシヒシと手応えを感じましたね。MCバトルっていままで知らない世界だったけど、注目されてそういう世界に自分入ったんだなって」

――MC BATTLEから卒業するとお聞きしました。“MC BATTLE”とはどんな舞台でしたか。

「私のなかではMC BATTLEがあったからこそ今の私がある。多くの人に知ってもらえた『私の始まり』ですね。いまの『#KTちゃん』を形作ってくれた、最初の存在ですね」

――ラッパーの方は強面の方も多かったと思いますが、そこに女子高生が飛び込むのは怖くなかったのでしょうか。

「怖いイメージはありました(笑)。高校生RAP選手権に出ようかなと思ったときに初めてMC BATTLEを見たんです。『強面の人が悪口言い合ってる』みたいに感じていました。ディスったりするの怖いし、自分がもし出るならディスりたくないしディスられたくないって思っていました。

逆にそれだったらディスらないラップをすればいいじゃんってところからいまのスタイルが生まれました。だからこそファンタジーなワードとかおとぎ話を使ったオリジナルのスタイルが出来上がったのかなって思います」

――代名詞でもある“人を(直接的に)ディスらないラップ”を作ったことへの自負はありますか。

「私がただ自分自身のやりたいラップをやった結果、周囲がやってなかったってだけです。『唯一無二のものを作ろう』よりはただただ自分がやりたいものを追い求めたら他にはないものが出来上がった感じです」

――#KTちゃんの活躍によってラップ界に新たな層を取り込んだと思います。

「それは本当にうれしいですよね。時々女の子のラッパーが私に憧れてラップを始めたってDM(ダイレクトメッセージ)が来たりするんです。MC BATTLEはプレイヤーもお客さんも男性が多い。楽屋のなかも男性に囲まれながらだったので、『女の子も来ないかな』って思ったり(笑)。MCバトルが男女関係なく盛り上がるものになればと自分の身をもって体感していて、私が女の子のラッパーが増えたりするきっかけにほんのちょっとはなれたのかなと考えるとうれしいですよね」

――MCバトルは観客の反応が直に自分に届きます。そのあたりはどう感じていましたか。

「あの声(歓声)を言わせたいですよね。自分はステージに立つ上でお客さんを盛り上げたい、楽しませたいという気持ちが根本にあります。MCバトルはそのお客さんの反応を生で感じられるのが魅力のひとつであったりする。カマせばカマした分だけ返ってくるんですよ」

――良い反応ばかりではなかったと思います。その点についてはどのように考えていましたか。

「ネガティブに思うよりは『もっと次はこうしよう』って思うようにしています。失敗というよりは次につなげるためのヒントに捉えて肥やしにする感じです。常に前を見て『もっといいものを』という感覚でやっています」

――そんな成長のきっかけにもなっているMC BATTLEを卒業します。不安はないですか。

「MCバトルって分かりやすく常に自分を更新し続けるものではあるんですけど、『アーティスト#KTちゃん』ってものをもっとみんなに知ってもらいたい。いまはフリースタイルのイメージが私にあると思うんですけど、もっと自分の曲を通してお客さんを楽しませたり、感動させられるようになりたいんです。今後はアーティストとして自分の積み上げてきたものを超えていきたい。そこで成長を見せていきたいと思っています」

――MC BATTLEで「積み上げてきたもの」とは何だったのでしょうか。

「#KTちゃんとしての人生の始まり。スキルを磨いたり、お客さんとの掛け合いだったり対戦相手とのやり取りだとか、メンタル、全てのものをMCバトルから学んだ気がしています」

――#KTちゃんになる前の自分が今の姿を見たらどんな反応をすると思いますか。

「信じられないと思いますね! 高校生RAP選手権に出なかったら今の私はない。ゼロなわけだからそう考えると、今の自分は全く想像できなかった展開です。ノリでって言いつつも勇気をもって飛び込んだ世界でした。それがあったからこそ人生が180度変わったなって思います。何者でもなかった私が何者かになった感じですよね」

アジア進出の楽曲収録を振り返った#KTちゃん【写真:荒川祐史】

タイでのレコーディングがアーティスト活動へ刺激

――アーティスト活動に注力しようと思った1番のきっかけは何だったのでしょうか。

「いままでMC BATTLEに出て、それがきっかけで多くの人に知ってもらえて感謝しています。ファンの方に『MC BATTLE見ていつも応援しています』って言ってもらえてうれしい。でも『アーティスト#KTCHAN』を知ってもらいたい。MC BATTLEの私を超えたいって気持ちが強くあったんです。そのためにアジア進出したり、ワンマンライブを開催するとかアクションを起こしたんです」

――#KTちゃんにとってのアーティスト像ってどんなものなのでしょうか。

「ラップというものがあったからこそいまの私がある。いままでの道のりを一緒に築き上げてくれたラップの可能性を自分のやり方で追求していきたい。ヒップホップというジャンルも越えていく。2次元、3次元も越えていく。アジア進出して国も越えていく。ボーダーレスですよね。唯一無二の表現をして#KTCHANっていうアーティストを確立させたい気持ちがあります」

――アジア進出の楽曲「choma! feat. Bryn, IIVY B」。タイ語の歌詞に驚きました。どんな流れでこの楽曲は制作することになったのでしょうか。

「まずこれは韓国人ラッパーBrynちゃんと、タイ人ラッパーIIVY Bちゃんと作りました。Brynちゃんが別件で来日中に関係者のつながりでたまたまご飯に行くことになって、そこで話をしていくうちに盛り上がって『一緒に曲作ろうよ』となりました。

タイってヒップホップが今熱い場所なんです。それを聞いて、タイの女の子のラッパーも一緒に3人で作りたいなと思って」

――国を超えて楽曲を作るのは大変ではなかったですか。

「タイで一緒にレコーディングもしました。トラックを作ってくれたのもタイ人の方だったんです。みんな意思疎通は英語。私は高校までの英語で単語とか顔である程度コミュニケーションは取れて(笑)。100%通じてはいないけど、フィーリングで楽しいって気持ちは一緒だよねって」

――刺激になりましたか。

「私は初海外だったんです。学校の英語の授業くらいしか外国人の方と接する機会がなくて、BrynちゃんとIIVY Bちゃんと話して思ったのは外国の方は開放的だということ。自分が思ったことをちゃんと言葉にできる。

日本って気を遣って意見を言わない風潮もあるじゃないですか。みんなが良いものを作るために音楽でぶつかっているところを見て、私自身も活動するにあたってビジョンがあるならもっと大きな声で叫んでいいんだなって。それは日本に帰ってきてからも生かせてる気がします」

――どんな部分で生かせていますか。

「音楽って正解がたくさんあるじゃないですか。今はシンプルに自分が心地いい音楽だったり、面白いと思ったアイデアをためらうことなく発言する。クリエイティブな発言が増えた気がします」

――逆に初海外で大変だったことはありますか。

「日本食が恋しかったです。現地の食べ物はおいしかったんですけど、日本にはない味で(笑)。音楽は関係ないけどおみそ汁とか飲みたかったです。それ以外は最高でした。空間、景色が日本と全く違う。すべてが新鮮で別世界に行っている感覚でした」

――思い浮かぶ歌詞だったり、発想も変わってくるものですか。

「タイがとても開放的な場所でルールとか決まりごとにとらわれないような、音楽以外でも自由な感覚になれる土地だったんです。歩いている人もせかせかしていない。そういう雰囲気も心にゆとりを持てました。『書こう書こう』よりは『良いものできるかなぁ』って降りてくるのを待つみたいな。それぐらい余裕を持てた気がします」

#KTちゃんから#KTCHANに表情も変わった【写真:荒川祐史】

#KTちゃん→#KTCHAN

――4月17日にはEP『Oneder』をリリースします。心境はいかがでしょうか。

「初のEPです。いままでも曲は出してきているけど、改めて#KTちゃんという存在を出していきたいからこそ出します。ボーダーレスな唯一無二のアーティストになりたいって強い思いが収録されている曲のなかにギュッと詰まっているものになっています」

――「アーティストとして」と強調しているように感じます。プレッシャーを感じたりはしていますか。

「いや、むしろいままでのフリースタイルをしていた自分を超えたい。いまの自分よりもさらに上に行きたいっていう前向きな気持ちです」

――具体的にMCバトルの#KTちゃんとアーティストの#KTCHANは何が違うのですか。

「根本的に私っていう存在自体は変わらないです。でもMCバトルは瞬間に感じたことを表現していく。アーティスト活動での楽曲はより自分が伝えたいメッセージ・世界観が凝縮した作品なんです。私の思いをより濃密に強く表現できるのが、アーティストとしての#KTCHANなんです」

――瞬間で消費されないようなものを作りたいということなのでしょうか。

「そうですね。まずは私と同世代の子たちにカッコイイと思ってもらえるような曲作りをしたいです。アーティストとしての私をたくさんの人が知ってくれるような人間になっていきたいです」

――ここ数年で大分人生が変わりましたよね。

「はい(笑)。でもまだまだ私はスタート地点。ここからはもっと違う景色をラップと一緒に見ていきたいです。まだ足りないっていうハングリーな気持ちがあって。もっと上には自分の見たことがない景色だったり感動があると思うから自分の足で階段を登っていきたいです」

――アーティストとして立ちたい舞台はありますか。

「ライブは両国国技館でワンマンライブをやりたいです。両国はMC BATTLEで1度立たせてもらったステージ。そのときに1万人の観客から歓声をもらいました。舞台が揺れて、全体も揺れる。それが自分のなかでビリビリしたというか、感動したんです。この歓声を自分の表現したいラップで引き出せたらもっと最高だろうなって」

――MCバトルのときの最高地点は両国ということでしょうか。

「漢 a.k.a. GAMIさん、かんかんと大きなステージで戦えたっていうのは自分のなかで心が熱くなったし、制服を脱いで卒業するっていう自分のターニングポイントでもあったので思い入れがありますよね」

――シンプルにレジェンドとの対峙(たいじ)は怖くないんですか。

「カルちゃん(呂布カルマ)とかたまちゃん(DOTAMA)とか(笑)。怖いよりはレジェンドの方とか大先輩はどっしり構えてくれるんですよ。だから私も120%でぶつかってもちゃんと受け止めてくれる。むしろ自分がパワーを出せる相手。私も全力でぶつかりにいける、そんな相手です」

――大舞台に立つメンタルはどう作っているのですか。

「私はあまり緊張しないタイプ。夢の世界、非現実的なものに感じているんですよ。この夢の中だったらなんでも実現可能だなって思うんです。この空間のなかでは私に不可能なことはない。なんでもできるってそんな気持ちになれる。それで腹を決めてステージに立っていましたね」

――#KTちゃんの同世代の方々は新型コロナでいろんなことが制限されてきました。そんな仲間たちに伝えたいことはありますか。

「怖がらないで飛び込んで(ハートマークの絵文字)」

――最後にアーティスト活動を本格化させるうえでの意気込みはありますか。

「いままでの私を作り上げてきてくれたMC BATTLEの世界に感謝してて、その上でMC BATTLEの私を超えていけるアーティストになりたいって思っています。そのためにはより“私”を濃密なものにしていきたい。その始まりになる今回のEPをみんなに聴いてほしいです。EPのリリース、アジア進出、今秋にワンマンライブを開催するってこの3つを名付けて“#KTCHANはアーティストだぜ宣言”ってすると分かりやすくなるかなと思っているので、“#KTCHANはアーティストだぜ宣言”よろしくお願いします!」島田将斗

© 株式会社Creative2