早起き熊ご用心 福島県全域に出没注意報 3月目撃、5年間で最多 暖冬など影響か動き活発

会津若松市の空き家に侵入し、その後捕獲された熊=3月29日

 今年の熊は「目覚め」が早い―。福島県内の3月の目撃件数はここ5年間で最多となり、4月も出没が続く。熊の冬眠期は4月ごろまでとされるが、専門家は暖冬などを背景に活動時期が早まっている可能性を指摘する。県は今月に入り県全域に出没注意報を発令、遭遇のピークが早まる恐れもあるとみて、県警や市町村と連携し、山菜採り・登山での入山者や里山の住民への啓発を強めている。「指定管理鳥獣」に熊が指定されたのを受け、県は県民の安全につながる対策を検討する。

 県や県警によると、直近5年間の3月と4月の熊の目撃件数は【グラフ】の通り。3月は2021(令和3)年、2022年の3件が最多だったが、今年は8件と2倍以上に。4月も15日時点で8件あり、昨年4月1カ月間の18件とほぼ同じペースだ。

 県自然保護課は暖冬の影響などから、冬眠を終える時期が早まっている可能性があるとみている。例年、目撃件数が増え始める5月より早い時期から急増する恐れもあると予想している。

 県野生動物調査専門官の溝口俊夫さんによると、この冬は雪が少なく、山に熊がねぐらとして体を休められる冬眠場所が限られたという。「ねぐらを見つける経験の乏しい若い熊ほど十分な冬眠をし損ねた可能性がある」と熊が早く動き出している背景を分析する。

 3月下旬には会津若松市の温泉街の空き家に1頭が入り込み、地域に緊張が走った。現地を調査した溝口さんによると、生後3~4歳の雄とみられ、適切な冬眠場所を見つけらず、動き出した可能性がある。ふんなどの痕跡から空き家で冬を越した可能性は低いが2週間~1カ月程度、とどまっていたとみられる。溝口さんはこうした集落や人家への出没は他地域でも起こり得るとし、熊を呼び寄せないように好物の米ぬかや家畜用飼料を適切に管理するよう呼びかけている。

 春は多くの人が山に足を運ぶ季節のため、動き出した熊と遭遇する危険性が増している。県警本部によると、昨年春の行楽期(4月20日~5月31日)に確認された熊による人身被害は3件。前年同期の0件から増加した。特に山菜採り中に熊に出くわすケースが目立つ。県警は熊よけの鈴を身に着けるなど被害を防ぐポイントの周知に力を入れている。

■「被害食い止めたい」 市町村や県対策に力

 地域住民を熊被害から守るため、市町村や県は対策に力を入れる。県内59市町村で昨年の年間目撃件数が最も多かった会津若松市は今年度、熊対策に当たる専門員を新たに2人配置。市鳥獣被害対策実施隊を過去最多の63人で組織するなど警戒を強めている。捕獲隊長の小沼清一さん(74)は「市と協力し、人的被害を何としても食い止めたい」と気を引き締める。

 吾妻山麓での目撃が多い福島市は熊が餌を求めて人里に下りるのを防ぐため、営農せずに放置されている果樹や栗、柿の木の見回りや伐採などを進めている。

 県内では、阿武隈川より東側に熊はいないといわれてきたが、いわき市には昨年度、熊の可能性が高い目撃情報が寄せられた。市は熊の活動範囲が市の一部に入り込んでいる恐れがあるとみて、防災メールなどでの周知を強化している。

 熊の指定管理鳥獣への指定を受け、自治体が捕獲や調査などに国の交付金を受けるには実施計画を策定する必要がある。県内には4425~7116頭(平均値5576頭)のツキノワグマが生息していると推定され、県は生態系保護の観点も考慮しながら計画策定の必要性を検討する方針。

【熊から身を守るためのポイント】

❶単独での入山は避ける

❷鈴やラジオで音を出す

❸熊のふんや足跡を見つけたら引き返す

❹遠くに熊を発見したら慌てず立ち去る

❺近距離で遭遇したら目を離さず、背中を見せず、後ずさり。走って逃げない

(県警本部地域企画課)

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