【達川光男連載#48】「厳しいところに行くけ気を付けろ」は「脅し」じゃない「予告」のつもりでした

監督時代には阪神・野村監督との〝直接対決〟も

【達川光男 人生珍プレー好プレー(48)】捕手の「ささやき」で有名なのは、野村克也さんでしょう。打者に対してマスク越しに「おい、グリップが下がっているぞ」とか「ちょっと前かがみになっているんじゃないか」と言っていたそうです。

ただ、私の場合は第1打席での「あいさつ」を除けば打者への「ささやき」というより「投手への声かけ」の延長であって「戦術」としてしゃべっていたわけではないんです。投手への声かけは県立広島商高時代に迫田穆成(よしあき)監督から言われて、常に心がけていたことでもありました。

前回紹介した大杉勝男さんへの「石ころ発言」もそうです。前の打席で先制3ランを浴びていた津田恒美(のちに恒実と改名)に「四球OK」と伝える過程で、出塁されても石ころのように一つずつしか進塁できないと意味で「石ころと一緒」と言っただけ。大杉さんに不快な思いをさせてしまったことは申し訳なかったですが、最初からイライラさせるつもりなどなかったんです。

「『次はカーブ』と言っていたのにストレートがズドンと来た」「『ど真ん中でええぞ』と言っていたのに外角だった」といった証言があるのも承知しています。ただ、最初から打者をだまそうと思って言ったことは一度もないんです。投手のコントロールミスやサイン間違いから、結果的にウソになってしまったことはありましたけど…。

「同じボールでは行けんのう」やら「今日は1本だけにしといてくれや」と言っていたのは偽らざる本音から。強打者相手に内角ギリギリを攻める際の「厳しいところに行くけ気をつけろ」みたいなことも「脅し」ではなく「予告」でした。同じ野球人としてケガはしてほしくないですからね。

ただし例外はありました。打席でバットを構えながら視線を落としてミットの位置をチラ見する“カンニング”をしてくる打者に対しては「目には目を」でね。せき払いして警告しても続けてきたら「インコースに行くで」と言って外に投げさせたりしましたよ。

いくら「生き馬の目を抜く」と言われるプロ野球の世界でもルールやマナーは守らなければなりません。ゴルフでもアドレスに入ったら静かにするようにね。サインを交換して投手がモーションに入ったら、私だって黙っていました。

年下のOBには「現役時代の達川さんは怖かった」と証言している人もいます。真剣勝負だから試合中にヘラヘラしているはずもないんですが、いつでもバリバリの広島弁だったので「怖い」という印象があったのかもしれません。暴力団の抗争を描いた映画「仁義なき戦い」のイメージもあったでしょうからね。

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