日本は休養の後進国? まだまだ知られていない休養の重要性【医学博士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

勤勉な日本でも、健康のために「休もう!」という文化は芽生えつつあるようです。しかし休養のための政策は打ち出されましたが、どうもうまく機能しないようで…医学博士、また日本リカバリー協会代表理事でもある片野秀樹氏の著書『休養学: あなたを疲れから救う』から、日本政府がおこなってきた休養のための対策を見ていきましょう。

「日本は休養の後進国」というのは本当なのか?

8割の人が疲れているということは、どうも日本人は、休みの日数が多いわりに、ちゃんと休めていないのではないか。あるいは、休養の取り方がうまくいっていないのではないかという疑問が浮かび上がってきます。

かつて安倍晋三元首相が「一億総活躍社会」というビジョンを掲げて、長時間労働の是正など「働き方改革」をおこなったことは記憶に新しいですが、国民の8割が疲れているという調査結果を見れば、改革は功を奏していないといわざるをえません。

国民の大多数が疲れていて、働き方改革も効果を上げていない。「日本は休養の後進国ではないか」と指摘する人もいるようです。

しかし「後進国」という表現はちょっと違うと私は思います。

なぜならあまり知られていませんが、厚生省はすでに1960年代から健康対策の一環として疲労対策を講じているからです。1978年には「国民健康づくり対策」を国民に対して発信しました。以来、10年刻みで第2次、第3次、第4次と、テーマごとの目標値を掲げた対策が打たれ、2023年に第4次が終了しました。

第3次からは「健康日本21」という名前でも呼ばれており、こちらのほうがなじみがあるかもしれません。第5次は2024年の4月から「健康日本21(第三次)」という名称で実施されることが決まっています。期間は12年間の予定です。

さて、その第1次国民健康づくり対策で提唱されたのが「健康づくりの3要素」、すなわち「栄養・運動・休養」です。「健康づくりにはこの3つが大切ですよ。まずは皆さん、この3つを意識した生活を送りましょうね」と、国民一人ひとりにみずからの健康管理を呼び掛けました。今でいうセルフメディケーション(自分自身の健康に責任をもち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)の先駆けです。

私が「日本は休養の後進国ではない」といったのは、このように、早くから国が休養の重要性に言及していたからです。ただし、その後がなかなか続きませんでした。

休養の大切さがまだまだ知られていない

栄養・運動・休養のうち、第1次国民健康づくり対策で重点が置かれたのは「栄養」です。第2次は「運動」で、「アクティブ80ヘエイティールスプラン」と名づけられました。これによって、栄養と運動の重要性はかなり浸透しました。

学校教育でも運動については小学校から体育の授業がありますし、体育大学もたくさんあります。運動生理学やスポーツ栄養学など、スポーツに関連する学問もさかんに研究されています。栄養も同じで、小学生のときから家庭科で栄養の基礎について学びますし、栄養学を専門に学べる大学もあります。

一方、休養については特別な対策はとられませんでした。その間に、休養に関する政策は後手に回ってしまったといわざるをえないでしょう。

休養が取り上げられたのは第3次からで、第4次からようやく、休養に関する目標が2つ掲げられました。

【図表】 「国民健康づくり対策」の歴史 出所:『休養学: あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)より抜粋

1つは、睡眠による休養を十分にとれていない人の割合を減らすこと。具体的には、2009年には18.4%いた睡眠不足の人を2022年度には15%にまで減らすという目標でした。もう1つの目標は、2011年には9.3%いた週60時間以上の過労働をしている人を、2020年には5%にまで減らすこと。

つまり、「労働時間を減らして睡眠時間を長くしましょう」という数値目標が明記されました。

しかしこれらの対策が十分だったかというと、そうではないと思います。国民健康づくり対策のスタートから50年近い年月が過ぎましたが、休養の重要性については、まだまだ知られていないのが現状です。

片野秀樹

日本リカバリー協会代表理事

博士(医学)

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン