勉強机やリビングのほかにも、学習習慣をつけられる場所がある。家が狭くてもできる工夫をプロに聞いた

新学期は、学校生活で心配なことが増えたり、さまざまな家庭の子育てに触れる機会が訪れたりする時期。小学生の子育てには、乳幼児期とはまた違った悩みが生まれます。OTEMOTOでは、親子サポートプロジェクト「6歳からのneuvola(ネウボラ)」をスタート。子どもが小学1年生になる保護者が悩みがちなテーマについて、"先輩"や"同期"にあたる保護者たちのリアルな声を紹介していきます。

ひとつの正解はないけれど、みんながどう対処しているのかを知ることで、「うちの子には何が合うのか」を考えるヒントになりますように。今回は「学習スペース」について考えます。

OTEMOTO

小学生になったら、自ら勉強をする習慣を身につけられるようにーー。前回の「家庭学習」に関する記事では、子どもの個性に合わせた勉強方法を模索している保護者の声を取り上げました。

家庭学習では、自宅のどこにスペースを確保するかも、ひとつのポイント。住宅事情の制約もある中で、子どもが勉強に集中できる環境を整えるコツはあるのでしょうか。

OTEMOTO編集部がアンケートで聞いたところ、低学年のうちはリビングで勉強させているという声が多くあがりました。

宿題が載らない勉強机

「夕食後、開始時間を自己申告させて、リビングで宿題とくもんのプリントをやっている。その時間はテレビを消して、子どもの学習に集中」(40代母親 / 2年生男子 / 埼玉県)

「未就学児のころからいつもリビングで絵を描いていることもあり、その延長線で、リビングの食卓テーブルまたはこたつテーブルで宿題もするという感じ。一応子ども部屋に机と椅子はあるものの、書き順や計算方法などの経緯もチェックしたいので、目の届くところで宿題をしてもらうほうが親としてもいい」(40代母親 / 3年生男子 / 東京都)

「リビングの長机でしています。子どもが3人いるためそれぞれに部屋を持たせることが難しいことと、家族と過ごす時間を大切にしたいから」(30代父親 / 1年生男子 / 神奈川県)

「リビングのテーブル、床、椅子の上など気分によって場所はさまざま。ひとりでやるのは嫌だと言うので仕方なくほぼつきっきりになっている」(50代母親 / 2年生男子 / 東京都)

「毎日の宿題はリビングの机か床。ひとり集中したいときのみ自分の部屋のデスクで本を読んだりタブレット学習したりしています」(30代母親 / 2年生女子 / 大阪府)

「ダイニングテーブル、リビングテーブル、子ども部屋にある勉強机の順で多い。リビングテーブルは書きやすい姿勢ではないが、どうしても見たいテレビがある時は、たまにそこでテレビを見ながら宿題をしている。子ども部屋にある勉強机はいつも片付いていないので、宿題を載せることもできないが、たまにきれいになるとそこで宿題をすることもある」(40代母親 / 4年生女子 / 奈良県)

部屋があるのにリビングで

「寝る」「勉強する」「遊ぶ」とき、子どもはどの部屋で過ごしていますか出典:積水ハウス 住生活研究所 「小学生の子どもとの暮らしに関する調査 (2023年)

積水ハウスが2023年1月、小学生の子どもがいる全国の20〜60代の既婚男女568人に実施した「小学生の子どもとの暮らしに関する調査」によると、子ども部屋を持っていても、自室ではなくリビングやダイニングで勉強しているという小学生は76.5%。このうち小学1〜2年生では83.1%にのぼりました。

「特に低学年では、子ども部屋を与えてもリビングやダイニングで勉強したり遊んだりしている子どもが多いです。親としても、目が届く安心感や宿題を見てあげられるメリットが大きいです」

住生活の専門家で積水ハウスフェローの河﨑由美子さんは、リビング学習のメリットについてこう話します。そのうえで2つの注意点を教えてくれました。

河﨑由美子(かわさき・ゆみこ) / 積水ハウス フェロー R&D本部1987年入社。高校入学までの12年間を海外で過ごした経験や子育て経験などを生かし、総合住宅研究所でキッズデザイン、ペット共生、収納、食空間など、日々の生活に密着した分野の研究開発全般に携わる。執行役員、住生活研究所長を経て2023年4月より現職。一級建築士Akiko Kobayashi / OTEMOTO 

ひとつは、明るさを確保すること。勉強や読書には500ルクス以上の照度が必要とされていますが、落ち着きを重視したリビングやダイニングは間接照明などで250ルクス程度に抑えられていることもあります。

「明るさが足りないと文字が読みづらく、目が疲れたり、集中力が低下したりする懸念があります。わずかな時間であっても、デスクライトなどを用意して手元を照らしてあげてください」

在宅勤務中に大事な「角度」

もうひとつは、親が在宅勤務などで子どもと同じ空間で過ごすときの接し方。

前出のアンケートでも、在宅勤務の経験がある保護者のうち、男性44.8%、女性81.8%がリビングやダイニングで仕事をしていました。

子どもと同じ空間で在宅勤務をするときにあてはまることは出典:積水ハウス 住生活研究所 「小学生の子どもとの暮らしに関する調査 (2023年)

子どもと同じ空間で仕事をするメリットとしては「子どもの様子を見ることができる」(50.0%)「子どもといつでも会話ができる」(38.2%)があげられましたが、「子どもが同じ空間にいると集中できない」(32.4%)、「ウェブ会議や電話会議に子どもの声が入ってしまうことがある」(23.5%)などのデメリットもあげられました。

河﨑さんは、同じ空間にいるメリットを生かしつつデメリットを避けるためには、「角度」によって工夫ができると話します。

「正面や隣に座ってアイコンタクトを取ると、『今、話しかけていいのかな』と子どもは感じてしまいがちで、親子ともに集中しづらくなります。幼いうちは目を離すわけにはいきませんが、小学校中学年以上であれば、親が子どもに背中を向ける位置で仕事をすることをオススメします」

子ども部屋を共用する

また、ウェブ会議など静かな環境が必要なときのために、Wi-Fi環境を整えた個室がひとつあると便利だそう。

「コロナ禍でリモートワークが浸透した際、子どもの学習机を親が使って仕事をするケースが多く見られました。子ども部屋の用途を限定せず、家族の誰でも集中したい人が使える"半共用"の部屋にするのはどうでしょう。『みんなの机だから片付けておかなければいけない』と意識するようにもなるでしょう」

OTEMOTOのアンケートでは、適度な距離感を保つため、リビングやダイニングに近い場所に子どもの指定席をつくっているという人もいました。

「リビングの一角に置いている自分の勉強机」 (40代母親 / 4年生女子 / 神奈川県)

「キッチンわきにあるスタディカウンター」(30代母親 / 2年生女子 / 東京都)

「リビングの隣の部屋に勉強机を置いた。見える場所でやらせるのがよかった」(40代母親 / 2年生女子 / 東京都)

レゴを片付けない理由

ところで、勉強場所というと教科書やノートを広げるスペースのことを想像しがちですが、河﨑さんは、子どもの発達段階に応じて空間を柔軟に活用する方法を提案します。

積水ハウスの住生活研究所では空間づくりの設計指針に生かすため、子どもの発達に関するさまざまな研究結果をもとに、乳児期から青年期までの段階で、「感性」「身体」「知性」「社会性」の4つの力が著しく発達する「重要発達期」を整理しました。

「『感性』は乳幼児期、『知性』は幼児期後期から小学生の間が、重要発達期にあたります。小学校高学年では特に『継続して努力する力』が強化されます。これは中学受験などにも必要になってくる学び続ける力です。この力をつけるためには、実は幼児期後期から遊びを通して準備することができるんです」

継続して努力する力をつける準備として河﨑さんが重要視するのは、レゴブロックや積み木、パズル、段ボールハウスづくりなどの「構築遊び」です。

「組み立てたものは場所を取るため、毎回片付けてはまた遊ぶときにゼロからつくり直すことが多いと思います。ですが、リセットせずに続きをやりたくなるような仕掛けがあると、もっとよいものにするための工夫や改良に取り組めます。毎日コツコツと取り組み続けたらすごいものがつくれたという成功体験も生まれます」

「ゲームはセーブして前回の続きから始められるので、その意味では理想的な構築遊びと言えます。リアルな遊びでも同じように想像力を膨らませたり、観察し続けたりすることで、継続して努力することが習慣化されていきます」

写真はイメージですAdobe Stock / wachiwit

とはいえ、現実的にはスペースの問題があります。海外では「素足でレゴを踏め(I hope you step on a Lego berefoot = ものすごく痛いことのたとえ)」という慣用句があるほど、レゴが散らばった部屋は世界中の親にとって脅威そのもの。リビングがおもちゃ無法地帯にならない方法はあるのでしょうか。

「日本人が昔から得意な空間の使い方として、床の種類や高さを変える方法があります。同じ空間でも、畳か板の間か、小上がりか土間かなどによって異なる役割を持たせることができるのです」

新築やリノベーションの機会があれば、床に段差をつけて一段低くするピットリビングや、小上がりの畳コーナーをつくることで、子どもが「この中は散らかしてもOKなゾーン」と認識しやすくなります。

周りの床より少し低めに段差をつけた「ピットリビング」Yuiko Nagasawa

「大きな改修ができない場合は、2畳、難しければ1畳でもいいので、カーペットなどを敷いて、『この中では片付けなくてもいいよ』と子どもに伝えてください。小さな棚で囲んだ秘密基地のようなスペースをつくるのもおすすめです」

できあがった作品をどうするかも悩ましい点です。河﨑さんは、どこに飾りたいかをまず子どもに聞いてみることをすすめます。

「その子なりにつくるときにコンセプトがあって、『この場所にこういうふうに飾りたい』とイメージを持っていることがあるからです。子どもは自分の目線でちょうどいいところに飾るので、中途半端な場所であっても、直さずにほめてあげてください」

いつまでもすべての作品を残しておくことはできないため、いずれは写真に撮って記録に残し、子どもと相談して処分します。

「『あと1週間だけ置いておくから、その間にもっとすごいものをつくる?』などと、創作意欲を引き出すような会話ができるといいですね」

絵を描く力

もうひとつ、小学校の入学前後につけたい力は「描画力」だと河﨑さんは言います。伝えたいことを絵に描いたり図解したりしてわかりやすく説明する能力です。

「例えば、友達と公園に遊びに行くというときに、2つめの信号で曲がって、そのあとに道路を渡って......といったことは、言葉で説明するよりも絵に描いたほうが伝わりやすい。算数の問題でも図を描くと解きやすくなることもあります。物事を正確に伝えるだけでなく、自分の気持ちを伝えるためにも大切な力です」

自由に絵やメッセージを描ける「ドラフトウォール」写真提供 : 積水ハウス

最近インテリアとしても人気の黒板やホワイトボードなど、気軽に描いて消すことができるツールがひとつあると、楽しみながら描画をする習慣ができる、と河﨑さん。描画が日常的になると、家族のコミュニケーションにも役立つといいます。

「ひらがなや漢字の練習できれいに書けたとき、子どもは親に得意そうに話しますよね。正しい書き順や正しいとめ、はね、はらいで書いた文字の美しさを、子どもは感覚的に理解しているんです。『上手に描けたね』『きれいに書けたね』というコミュニケーションは、美しいものを選び出す感性を養います」

変化を描き足す観察日記

また、継続して努力する力と描画力をかけ合わせた学習の工夫も教えてもらいました。

小学校低学年の夏休みの宿題によくある、アサガオやヒマワリの観察日記。通常は、その日に観察した様子をゼロから描いていくものですが、河﨑さんがすすめるのは、ひとつの絵に成長や変化を日々、描き足していく方法です。

「芽が出た、双葉になった、つぼみが広がって花が咲いた、今日はテントウムシがやってきたなど、起きた変化だけを描き足していくほうが、実際の観察結果と同じでリアルです。変化を楽しむことができるので、継続して観察する習慣も自然に身についていくでしょう」

写真はイメージですAdobe Stock / 熊谷直子

学校の勉強とは異なるアプローチができるのは、家庭学習ならでは。学び方は人それぞれで、計算や音読などとは違う学びが意欲につながるという子もいます。

「子どもの発達は、社会の一員として活動するための基盤づくりの期間であり、ゴールがないからこそ過程そのものが大切です。親も一緒になって子どもの感性に寄り添いながら、その子の得意な分野を見つけて伸ばしてあげたいですね」

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親子サポートプロジェクト「6歳からのneuvola」では、学習スペースのほか、保護者の働き方、PTA、おこづかい、ゲーム、勉強場所などのテーマを順次、取り上げています。アンケートは引き続き募集していますので、ご意見やご経験をお寄せください。

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