小学生が半能を披露 3年間の集大成「子ども能楽教室発表会」【北九州市門司区】<PR>

「『能楽』で地域活性実行委員会」は、能楽の普及および発展への取り組みを推進しています。“文化香る街”北九州に“伝統の重厚さ”という付加価値を加え地域活性化へとつなげる活動で、この取り組みを推進する新ケミカル商事株式会社は「2023北九州SDGs未来都市アワード」の企業部門でSDGs大賞を受賞しました。

取り組みの一環として、北九州市の小中学校を対象にプロの能楽師を学校へ派遣する「能楽出前授業」を令和4年より実施。3年間で15校、1000人余りの児童が受けたそうです。

その3年間の集大成として、子ども能楽体験教室に参加した小学生が半能を披露する「子ども能楽教室発表会」が門司市民会館で開催されました。今回はその様子を紹介します。

発表前の緊張した子どもたち

今回の「子ども能楽教室発表会」は、学校も学年も違う小学校の児童9人が地元演目「和布刈」を披露するもの。今年初めて参加する子もいれば、2回目の参加の子など練習期間や経験も様々です。

午前10時半、開演まで3時間あるにも関わらず、子ども達が次々に到着しリハーサルに備え袴を着ていきます。足袋を履き歩きにくそうにしていると「つま先にぐっと力を入れてごらん」とアドバイスされていました。

本番の衣装着用後、楽屋では出番を待つ子ども達の緊張感が高まっていました。

畳の楽屋で正座していると「疲れるから椅子に座ってていいよ」と言われ、楽屋を離れる子どもたち。少しリラックスできたようで笑顔がこぼれる場面も。

今まで仕舞や連調の発表のみでしたが、今年は能楽師と共演する形で半能を披露します。半能とは、能の略式演奏形式の1つで主に後半を演じることです。その半能「和布刈」でシテ役「龍神」を披露するのは今年度小学校を卒業した中村澪さん。リハーサルで初めて能の衣装である龍神の装束を身に纏います。

「頭が思っていたより重たい」と言う澪さん。最初は笑顔を見せていましたが装束を着ると、少しづつ真剣な表情になっていきました。

着てみると袖の捌き方が難しいようで、リハーサル前に舞台裏で少し稽古していました。「かっこいいね」「かわいいね」「自信をもって」と励まされつつ、先に始まった能楽師による「清経」のリハーサルを耳にし緊張しながら待っていた姿がとても印象的に残っています。

反対側の舞台袖でも子どもたちが待機しています。扇を配られると「いよいよ始まる」と緊張する子や、扇を手に少し楽しそうな子など様々です。

いよいよリハーサルがスタート 保護者も緊張の様子

いよいよ仕舞のリハーサルから始まります。広い観客席を見つめながら一生懸命大きな声を出していました。

途中、袴を直す場面もあり、まだ慣れない袴や舞台に保護者も緊張した面持ちで子どもたちの演技を見ていました。

次は連調のリハーサルです。始まる前にお互いに礼をし、太鼓をもって舞台へ。4月から小学3年生の石倉征実さん、小さな手で一生懸命大きな太鼓を運びます。

少し慣れてきたのか地謡のみんなの声が大きく響いていました。

最後は半能。舞台裏では出演ぎりぎりまで手直しがされています。

緊張した顔のシテ役の澪さん。装束を着ると立ち上がるのも大変な様子。ずっと裏で練習していた動き、本番でも上手くいくといいですね。

リハーサルが終わるとみんな口々に「あぁ~お腹空いた」と言い、少し緊張も和らいだようでした。

「子ども能楽教室発表会」いよいよ本番

リハーサルが終わり、お昼ご飯を食べた子どもたち。もう一度着替えいよいよ本番に臨みます。本番は約400人の観客がいたそう。

最初に、『能楽』で地域活性実行委員会事務局長、新ケミカル商事株式会社の上田哲則会長より挨拶がありました。

上田会長は「みなさんにご報告があります。私共が行っている取り組みがこの度、2023北九州SDGs未来都市アワードのSDGs大賞の企業部門を受賞しました」と受賞の報告と関係者への感謝を伝え、「和布刈を知ることによってこの土地がいかに歴史的に深い地であるかこの地の誇りをみんなと一緒に再認識したい思っています。今日は最後までお楽しみください」と話しました。

続いて来賓を代表し、公務で欠席の武内市長に代わり大庭副市長が挨拶を代読。「文化や芸術は人の心に潤いを生む大切な力を持っています。北九州市は、誰もが文化や芸術を楽しむことのできる彩のある街への実現に向けて、市民の皆様と対話を重ね文化振興に努めてまいります。今後も地域の大切な伝統芸能として能楽が次世代に継承されることを期待いたします」と伝統芸能の普及活動を称えるメッセージを送りました。

次に、「清経」でシテ役を務める能楽師の石黒実都さんより挨拶。これまでの能楽出前授業などの取組について説明されました。最初は「子どもたちが地元演目である和布刈の詞章<神主松明振り立てて>を口ずさんでくれたらいいな」という思いからこの取り組みが始まったと語ります。

また、北九州市内での能楽の取組などについても紹介。「これで終わりでなく、まだ小さい子どもたちも龍神や神主に挑戦したり、違う楽器をしたりなどチャレンジして欲しいです。この発表会が集大成ではあるけれど、スタートラインに立ったような状態で、いつか子どもたちだけで半能を実演できるように皆様にもご尽力いただきたいと思っています。本日は、子どもたちの頑張りを応援してください」とこれからも活動を続け、能楽を広めたいという気持ちが伝わるお話がありました。

本番開始 練習の成果はいかに…

笛の音色が聞こえ、いよいよ本番。仕舞から始まります。緊張から子どもたちの少し戸惑う仕草に石黒さんがそっとフォローします。

本番では、足袋にも慣れてみんな上手に立ち上がり、足の先や手の先までしっかりと動いていました。

みんなきれいな足さばきでしっかりと演じています。声もホールの後ろまでよく届き、リハーサルとは違う迫力でした。保護者に聞いたところ、お風呂でとても大きな声で謡って練習していて、あまりに大きな声に注意したこともあったそうです。その練習の成果が良く出ていました。

次に連調。太鼓をもって舞台に入り、謡の子どもたちと分かれて座ります。

1月から3月までの6回の練習で発表会に臨んだ子どもたち。自身の希望で太鼓やワキ、シテを選んだそうです。

太鼓の征実さんは、6回の練習だけでなく、動画を撮影したものを見ながら家でクッションを叩きたくさん練習したとのこと。最初に合った時は、まだ笑顔で友達と少しじゃれたり楽しんだりしている様子でしたが、本番は真剣そのもの。一生懸命な姿にこんなに変わるのかと驚かされました。

そして最後は、今年初めて行う半能です。黙々と舞台上に準備をしていきます。笛の音が鳴り、しばらくすると神主役ワキである御厨誠吾さんが登場します。

その後、いよいよ龍神役シテである澪さんが緊張した様子で登場しました。顔は緊張しているものの、堂々とした動きでありながら丁寧に演じていました。

リハーサル前に舞台裏で一生懸命練習していた袖の捌きも上手にできていました。半能が終わり、最後の子どもが退場してもホールからは大きな拍手が鳴り響いていました。

能楽師による能「清経」を実演

その後、休憩をはさんで能楽師による能「清経」が行われました。実演前には、自らも能楽を30年ほど行っているという上田会長が「清経」について解説。傑作と言われており、上田会長も大好きな作品だということを明かしました。

「清経」は、都を逃れた平家一門、平清経が極楽浄土を願って1人関門海峡の沖(現在の門司区大里にある柳の御所の辺り)に入水して果てた後の話。清経の妻ツレが夫の死を受け入れられず、「夢になりとも見え給へ」と嘆き恨んでいたところ、清経が夢に現れるというストーリー。清経と妻の恨みごとを言い合う場面も見どころです。

「和布刈」とは趣の異なる郷土ゆかりの演目を通して、益々能楽に親しんで欲しいという思いから今回の演目である「清経」を選ばれたそうです。

「和布刈」とは違った装束や面、また迫力のある演技や謡で見入ってしまいます。

左中将清経役シテの石黒さんが登場すると、足や刀を使った動きに観客もとても集中して見ているようでした。

また、最後に新ケミカル商事株式会社が2023北九州SDGs未来都市アワードのSDGs大賞の企業部門を受賞したことを記念して、祝言一調「和布刈」が実演されました。

終演後の子どもたちの様子

終演後、子どもたちは袴を脱いでほっと一息ついたような安心した様子。笑顔ではしゃぐ子や疲れてぐったりしている子もいました。

半能で龍神役を演じた澪さんに話を聞くと「重たかったし、緊張したけどずっとしてみたかった龍神ができてよかったです」と満面の笑みで答えていました。また「4月から中学校に進学しますが、機会があれば続けていきたいと思っています」と今後の活動への思いを語りました。

太鼓を頑張っていた征実さんは、「いつか半能の龍神役をしてみたいです」と力強く話してくれました。

最後にお土産として来場者全員に北九州銘菓である梅園の河豚最中が配られ、ここにも地元を大切にしたいという気持ちが込められていました。

(提供:新ケミカル商事

© 北九州ノコト