谷川俊太郎、92歳の新たな挑戦「今まで経験したことのない何かを感じたい」

92歳になった谷川俊太郎。多くの著名人からリスペクトされ続けている存在(撮影:水野竜也)

92歳になった今でも、精力的に創作活動を続ける谷川俊太郎。

アート名言集『生きてるってどういうこと?』の発売にあたり、「ずっと自分自身に問いかけてきたことをみなさんと分かち合っていきたいと思って」と語った。

――ウクライナの戦争やコロナウイルスなどで混沌とした状況が続く中、生きるということについて改めて考えるようになった人たちが増えています。

僕の場合は、小さいときから戦争が始まっていて、小学生から中学生にかけて東京が空襲されて焼け野原になったりしているのを目の当たりにしてきたんですよ。戦争のリアリティというのを割と小さい頃から知っていたんですね。

だから、いま、ウクライナとロシアが戦争しているということも、当たり前のことのようにして見ちゃうんです。

やっぱり戦争は嫌なんだけれど、これはもう、人間の運命というか、宿命みたいなもので、いくら未来になっても戦争は終わらないだろうという感じを持っていますね。

一種の諦めのようなものなのだけれど、そこにあるリアルな感じというのを持っていたほうがいいのではないかと思います。

人間はやっぱり争うからね。勝負事が結構好きでしょう?

だから、割と、いろんな事件が起こっても、もう平気になっちゃいましたね、年取ったら。

――40~50代には、日々の生活に追われながらも自分の生き方に迷いを抱いている人が多くいます。そんな人たちに何かアドバイスをいただけますか。

もうそんな生意気なことできないね、年寄りだから。

年寄りは、若い人と違って、全然発想が変わるんですよ。

だから、諦めてもいいとか、絶望してもいいとか、そういうマイナスの価値が自分でもありのままに認められるようになったというところがありますよね。

言ってみればすごく自由になっていて、自分が感じることは全部リアリティがあるんだと思うようになって、あんまり、こういうふうに感じちゃいけないとか、こんなことを思っちゃいけないとか、というふうにはなってなくて、「何でもありだ」という感じになってますね、今や。

――今回発売した本は、谷川さんの詩と宮内ヨシオさんの絵を組み合わせた合作ですね。

僕は若い頃から、来る仕事で、自分ができそうな仕事は全部受けていたんです。何しろ、大学にも行ってないし、手に職もないし、とにかく食っていかなきゃいけなかったから。

そういうわけで、例えば歌詞を書くとか、誰かのイラストに言葉を書くとか、自分とは違うジャンルの仕事っていうのをいっぱいやってきているわけ。それが結構、自分のエネルギーになっていたんですね。一人でやるのではなく、いろんな人とやるということが。

それは本当に、自分じゃなくて、他の人のおかげで今までやってきたという気持ちはすごくありますね。

だから結構、合作のほうが力を得るというか、エネルギーが湧くことが多かったりするんですよ。

自分にないものが出てくると、自分の中からまた何か出てくるんですよね、一人でやるよりも。

ほかのジャンルの作品を見せてもらって、そこから自分の中の何かが湧いてくるということがありますからね。

――創作活動において、何か影響を与えているものはありますか。

僕は子供のころから自然に触れて生きてきて、それが詩にも大きな影響を与えていると感じています。

自然というのは自分の創作の原動力になっているんですよね。言葉の世界というのは一種人工的でしょう。どうしても、その言葉の世界のもとにある芸術というのに触れたくなるんですが、それが究極的には自然なんですよね。

だから、やはり、東京にいるだけじゃなくて、ときどき自然の中に出たくなったりしましたね。

――今後、どんな創作活動をしていきたいですか?

僕は、これからあと何年やるか分かんないですけど、今まで経験したことのない何かが感じられるといいなというのは思います。

だから、もう九十歳を超えていればほとんど時間はないわけだけど、やっぱり、前からの経験じゃなくて、何か新しい、九十歳を超えたからこそ感じるものがあるだろうと思うのね。それをなんらかの形で言葉にしたり表現したいとは思うんだけど、これも結構難しいんですよ。

何か自然に降りてくるとか、湧いてくるとか、やっぱり自然とのつながりって、年を取れば取るほど強くなりますね。

谷川俊太郎92歳、今も変わらず好奇心旺盛で意欲的に創作活動を続けている。

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