“一本中の一本”を仕留める。勝負強さを呼び覚ました松木玖生が中国戦で圧巻の活躍ぶり「出場した試合は全試合で決めようと思っている」【U-23アジア杯】

“一本中の一本”。青森山田高で黒田剛前監督(現・町田監督)が掲げていた言葉が、大舞台で思い起こされることになった。

パリ五輪のアジア最終予選を兼ねるU-23アジアカップのグループステージ初戦。大岩剛監督が率いる日本は中国に1-0で勝利した。

簡単な試合ではなかった。17分にCBの西尾隆矢(C大阪)が一発退場。自分たちのCKから自陣に戻る際、後ろからぶつかってきた相手を左腕で振り払い、肘打ちする格好に。この行為にレッドカードが提示された。

一人少ない日本は防戦一方となり、前半は押し込まれる展開に。38分にはバー直撃のミドルシュートを見舞われるなど、相手の勢いにいつ飲み込まれてもおかしくない状況だった。

なんとかハーフタイムに修正し、後半は最終ラインを高く設定。コンパクトな守備からセカンドボールを拾うなど、粘り強い守備を披露。虎の子の1点を最後まで守り切った。

0-0や0-1の状況で数的不利になっていた場合は敗戦も十分にあり得た。だからこそ、開始8分に奪った先制点の価値は大きい。決めたのは、松木玖生だ。

【動画】自慢の左足で仕留める!松木玖生の決勝弾
立ち上がりは日本のペースで、テンポ良くボールを繋いでサイドからチャンスを生み出した。そのなかで最初の決定機が8分だった。右サイドにMF山本理仁(シント=トロイデン)が展開すると、タッチライン側に陣取ったMF山田楓喜(東京V)が内側を駆け上がってきた右SB関根大輝(柏)へパスを送る。

ポケットを取って相手をうまく外すと、リターンを受けた山田がGKと最終ラインの間に絶妙なクロスを入れた。このチャンスを見逃さなかった松木が飛び込む。自慢の左足で合わせ、確実に仕留めた。まさに高校時代に青森山田で培った“一本中の一本”。勝負強さと決定力を改めて示し、チームの勝利に貢献した。

「(山田の)カットインのタイミングでうまくディフェンダーの間に入ることができて、良いボールが来た。あとはキーパーを見れていたので、しっかり流し込めて良かった」

冷静にゴールを振り返った松木だが、プロ入り後はストライカーのようなゴールが減少。ミドルシュートなどでは奪っていたが、PA内に入って得点嗅覚を活かして奪うゴールはあまりなかった。

逆に高校時代はトップ下やボランチでプレーしていても、ポジションに関係なく攻撃も守備も全力でこなしたうえで、誰よりも得点にこだわって必ずゴール前で仕事をしていた。なぜ、そうした得点が少なくなっていたのか。

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理由の1つが、プロキャリアをスタートさせたFC東京での役割だ。ボランチやインサイドハーフで中盤の舵取り役やコンダクターを担い、バランサーとしてのプレーを求められた。

そのため、ゴール前での働きが必要不可欠ではなくなり、自然と得点数が減り、大一番での勝負強さもあまり見られなくなった。

だが、今季はクラブでトップ下を任され、高校時代のようにゴール前での仕事がタスクに。その10番のポジションが松木の得点感覚を呼び覚ますことに繋がった。

「勝負強さは今日の試合(中国戦)で出せた。自分自身もクラブでも10番のポジションをやっているので、ゴールに多く絡むこととチャンスメイクのところを大岩監督に求められている。次の試合もその次の試合も大事になると思うので、(決定力や勝負強さは)もっと磨いていきたい」

中国戦では守備面でも貢献。西尾が退場した直後は、CB木村誠二(鳥栖)が投入されるまで、U-15日本代表以来の左SBでプレー。堅実なディフェンスで奮戦した。

攻守の両局面で頼りになり、試合を決めるゴールも。青森山田高時代を彷彿させるパフォーマンスを披露した松木の存在感は絶大だった。

19日に控えているUAE戦での活躍にも期待がかかる。「この大会に関しては、出場した試合は全試合で決めようと思っている。それぐらいの気持ちで日本を助けていきたい」と言い切った17番は、現状に満足せず、パリ行きの切符を掴むまで走り続けていく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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