社会人2年目の娘に「ねんきん定期便」が届きました。学生時代の未納があるのですが、「学生納付特例制度」を利用していたので大丈夫ですよね?

学生納付特例制度とは

学生納付特例制度とは、在学中で本人の所得が一定以下であれば、申請により家族の所得に関係なく保険料の納付が猶予される制度です。日本では20歳になると、国民年金に加入して保険料を納付する義務が発生しますが、20歳といえばまだ学生で、経済的に自立していない人も多いでしょう。学生納付特例制度は、そのような学生の保険料負担を軽減するための猶予制度なのです。

対象者は夜間・定時制課程や通信課程の人も含まれますので、ほとんどの学生が対象となり、実際多くの学生が利用しています。2022年に厚生労働省から発表された「令和2年国民年金被保険者実態調査結果」でも、制度の存在を知っている学生が83.3%、さらに63.9%もの学生が学生納付特例制度を利用しているという結果でした。

学生納付特例制度の適用を受けると、保険料の納付が猶予されるだけでなく、この猶予期間も年金の受給資格期間に算入されます。また、学生納付制度には「追納制度」が設けられており、特例を受けて10年以内に納付すれば、猶予期間は納付期間として取り扱われます。

学生納付特例制度の「追納制度」はあまり知られていない

このように制度の周知や利用が進んでいるように見える学生納付特例制度ですが、実は猶予を受けた期間の年金額への影響はあまり知られていません。

厚生労働省の同調査によると、学生納付特例制度のことを知っている人の中でも、追納しないと年金額に反映されないことを認識している人は半数以下の44.1%です。つまり、制度を知っていたとしても、追納制度にまでは意識が向いていない人が多いということになります。

追納しないと年金の金額には反映されない

学生納付特例制度を利用しても、保険料はあくまでも納付を「猶予」されただけで「免除」されたわけではありません。免除と猶予の大きな違いは、将来もらえる年金額に反映されるかされないかという点です。

もし20歳から40年間保険料を納めれば、老齢基礎年金の受給額は満額となり、2024年度は月額で6万8000円、年額に直すと81万6000円となります。

しかし、例えば20歳から社会人になるまでの2年間、学生納付特例制度を利用して追納しなかった場合、老齢基礎年金の受給額は月額6万4600円、年額に直すと77万5200円となり、受給額が年間4万800円減少します。もし、65歳から女性の平均寿命である87歳まで22年間年金を受給するとすれば、受給総額の差は約90万円です。

追納の効果は思ったよりも大きい

追納するときの保険料額は猶予を受けた時期によって違いますが、現在の保険料で計算しても、2年分で「1万6980円×24ヶ月=40万7520円」です。87歳まで22年間年金を受給したと仮定した約90万円の差をどう考えるかにもよりますが、保険料負担の2倍以上が受給可能と考えれば、追納の効果は少なくありません。

ほかにも追納した保険料は社会保険料控除として節税対策にもつながります。一気に2年分の追納は難しいかもしれませんが、10年という長い期間の中であれば、追納のハードルもそれほど高くはないのではないでしょうか。

県外の大学に進学していた場合など、学生納付特例の申請を親が代理で行う場合もあるため、学生の頃は遠い将来の話である年金への関心は薄くなりがちです。また、年金に対する漠然とした将来不安もあるかもしれません。

しかし、社会人になって収入を得るようになった時こそ、追納するメリットを把握して検討することが大切です。もし、学生納付特例制度を利用して保険料を追納していないことに親が気づけば、その時は親が子どもに追納のアドバイスをするのもよいでしょう。

まとめ

学生納付特例制度は、まだ経済的に自立していない学生の年金保険料納付を猶予する制度です。保険料の納付が猶予される以外にも、受給資格期間にカウントされるなど、特例を受けるだけでも多くのメリットがあります。しかし、あくまでも「猶予」であり、10年以内に追納しないと将来もらえる年金額には反映されません。

また本記事でも説明したように、追納しないと年金額に反映されないことを、利用者の半数以上は知りません。年金を増やす方法はほかにもありますが、まずは本記事をきっかけに、メリットを把握して追納を検討してみてはいかがでしょうか。

出典

日本年金機構 国民年金保険料の学生納付特例制度
厚生労働省 令和2年国民年金被保険者実態調査 結果の概要

執筆者:松尾知真
FP2級

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