社説:京丹後市長5選 合併20年踏まえ展望を

 京丹後市長選は現職の中山泰氏が無投票で、通算5期目となる当選を決めた。2004年の旧6町合併による市制の発足後、無投票は初めてである。

 市長選では、前回と同じ元市職員労組幹部の新人が立候補を表明したが、支持が広がらないとして取りやめ、各政党も独自候補を擁立できなかった。

 中山氏の実績が一定評価された面はあるにせよ、合併から20年の節目に、市政の方向性を考える4年に1度の機会が失われたのは残念というほかない。

 中山氏は、前回選挙で「かせぐ地方創生」を掲げ、4年ぶりに市長に返り咲いた。公約通り、ふるさと納税の寄付額増に注力。返礼特産品の提供業者を広げ、約1400の品目を対象にした。

 23年度の寄付額は過去最高の18億円に届く見込みで、京都府内26市町村の中でも上位に入る。観光関連を中心に、産業の活性化にも取り組んできた。

 一方で、市制施行から最大の課題は深刻化している。20年間の人口減少は著しく、5万879人(2月末)と合併前から1万5千人減った。全国的に進む少子高齢化に加え、伝統産業の織物業や農林漁業などの不振による働く場の縮小が背景にある。

 市財政も厳しさを増す。合併特例債の活用期限が来年3月に迫る中、市役所峰山庁舎の増築や学校給食センターなど大型事業が進む。22年度決算で借金返済の負担度を示す「実質公債費比率」は12.8%と府内平均を上回る。人口減を直視し、より優先度を見極めた財政運営が欠かせない。

 中山氏は公約で、地域経済の振興やふるさと納税による財源確保、教育・子育て環境の充実などを挙げた。無投票に安んじず、これまで以上に市民の声に耳を傾け、着実に実現してほしい。

 京丹後市は豊かな自然に恵まれ、食や織物など独自の文化が息づく。これを生かして先端企業や大学と連携した地場産業の支援、ブランド産品を生む農漁業の強化などで新たな雇用を創出したい。

 新型コロナウイルス禍を機に増えている移住者施策の充実、観光客らによる「交流人口」の拡大も地域づくりに資するはずだ。

 中山氏は初代市長でもあるだけに、合併後20年の歩みを総括する役割を求めたい。当初の理念だった旧6町の「均衡ある発展」を多角的に検証しつつ、市の将来像とその道筋を練り直して市民に示すことは責務だろう。

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