道を聞かれただけなのに…タクシー運転手がまさかのクレームにあ然 ネットは同情「仕事のモチベ下がる」

タクシー運転手はクレームにも悩まされている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

泥酔女性客から思い違いで「認知しろ!」と怒鳴られたことも

タクシー運転手は日々いろいろな乗客と接しているが、時に首をかしげたくなるような事案に直面することもある。関東地方で働く50代の男性タクシー運転手は、道を聞かれた際にバス停を教えただけで、「顔が怖かった」という“苦情”を受けてしまったという。タクシー稼業のやりがいと悲哀。当事者の本音を聞いた。

4月のある週末の朝。今日は少しゆったりと仕事ができるなと勤務を始めた矢先のこと。駅前で待機していた男性運転手は、若い女性から病院までどう行けばいいのかを尋ねられた。「あのバス停からバスに乗れますよ」。自分としては普通に答えただけだったのだが、その後に、勤務先の事務員から緊急連絡のメールが入った。

「今女性の方から苦情の電話が入りました」

会社からのメッセージに思わず目を疑った。すかさず事務員に事情を聞くと、「(男性運転手の)言い方と顔が怖かった」という理由だったと聞かされた。

男性運転手はバス待ちしていた女性に声をかけに行って、なぜクレームを入れたのかを直接確認。「怖かったです」との答えだった。もっといい対応をしないといけないのではないかという趣旨のことも言われた。そもそも女性は乗客ではなく、道を聞かれた際に少しやりとりをしただけ。どこまで接客サービスを行う必要があるのか。男性運転手はその観点からも違和感を覚えたといい、「あなたはお金を払っていないですよね。僕がそこまで言われる筋合いはないですよ」と伝えたという。

勤務先の会社は苦情を受けた時点で女性に謝罪をした。男性運転手は容姿に関することを言われたことを含めてモヤモヤした思いを抱えながら、社長と話し合った。男性運転手は「これでは仕事のモチベーションに関わりますよ」と訴えた。とはいえ、地方の小規模のタクシー会社だけに、クレーム対応の役割分担などがそこまで整備されていなかった。今後は社長と専務が対応をするという流れが決まったという。一般論としては、客とのトラブルには冷静な対応が求められ、なるべく第三者をまじえて解決に導きたいところだ。

男性運転手は茂(@Shoutoku32)のXアカウントで、会社から苦情の連絡があったという概要だけを書き込んだ。やり場のない思いがあったという。それでも、投稿は4400以上のいいねを集める大反響を呼んだ。「クレーマーを相手にする企業はダメですね」「本人には言わずクレーマーの電話スルーすれば」「こういうのはやめてもらいたいですよね 仕事のモチベ下がります」「これでトラックのほうが儲かるならトラック行くわ」などのコメントが寄せられている。想定外の出来事で、「やるせない思いをちょっと書いただけで、ここまで反響が広がるとは思いませんでした。多くの人の心に刺さるものがあったのかと驚きました」と受け止めを話す。

もともと地方のバス運転手として働いていたが、給与・待遇面の厳しさから東京の大手タクシー会社に転職。大手町や港区周辺を回った。その後、地方都市のタクシー会社に移って約10年となる。

ドライバー人生、酸いも甘いもかみ分けた。ある時、深夜に飲食店から客を乗せることになった。その外国人の女性客は泥酔状態。店内はぐちゃぐちゃになっていた。自分の住所も言えないほど酩酊。女性客の仲間から聞いてなんとか送り届けた。女性客は何の思い違いがあったのか、「元夫なのか、別れた彼氏なのか、僕のことを勘違いして、『(子どもを)認知しろ!』と怒鳴ってきたんです」。あろうことか、ハイヒールで頭をたたいてきた。ひどい内出血の負傷を負い、さすがに警察を呼んだ。他にも、3人組からボコボコにされるなど暴力被害を受けたことは何度もある。

それでも、けっして客という存在が悪いものだとは思っていない。「こういったとんでもない人は1割いるかいないか。大半のお客さんはいい人ばかりです。『助かったよ』と声をかけてもらうことにやりがいを感じます。タクシーの車内は初めて会った人との距離が近いという特徴があると思います。僕らはお金をいただいている立場なので、何かあっても強く出ることができない。そこをはき違えて、『金を払っているんだから、運転手は客の言うことに従え』と、そう勘違いしている人が出てくるのかもしれません。もちろん、お客さんからいただいたお金で僕らは飯を食っていることは重々承知しています。何とも言い難いのですが、もう少し寛容になっていただければと思います」と、複雑な心境を明かす。

タクシー運転手の醍醐味(だいごみ)は、不思議と乗客の人生に寄り添える瞬間があるということだ。夜の勤務でハンドルを握っていると、自分のことについて語り出す客もいる。「仕事の失敗談や人間関係の悩みなど、『誰かに聞いてほしい』ということを話してくださるんです。僕は黙って聞いて、受け止めるんです。お客さんが降りる時に、『ありがとう』と言ってくださって…。自分が何かの役に立ったんだなと思うこともあるんですよ」。つらいことも多いけれど、誇りを持っている。男性運転手はウェブ制作の勉強をしながらも、タクシーの仕事を続けていくつもりだという。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム

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