テーマは40人で「速さ」「時計」を合わせること【風間八宏監督と『キャプテン翼』南葛SCの挑戦】(2)

風間八宏監督が南葛SCで目指すサッカーは? 撮影/サッカー批評Web編集部

日本サッカーの発展はすさまじく、トップカテゴリー以外のチームも、著しくレベルが上がっている。そんな中、地域リーグから新たな挑戦をしているのが、南葛SCだ。かつて川崎フロンターレを強豪へと押し上げる礎を築いた風間八宏監督と南葛SCの挑戦に、サッカージャーナリスト後藤健生が目を凝らす。

■トレーニングでやっているのは「基本」

選手たちに約束事や決まり事を与えて、「ここにボールが入ったときには、このポジションの選手はこう動く。こちらの選手はこちらに動く」といったことを決めておけば、選手たちがその指示通りに動くことで攻撃が展開できる。

だが、風間八宏監督はそんな教え方はしないのだろう。

風間監督がトレーニングでやっているのは、サッカーの基本だ。

ボールを止める、蹴るといった基礎技術。相手をほんの少し外すこと。そういう基本を積み上げていけば、選手の技術と判断力が上がり、どんな状況になっても慌てずに、正確な判断に基づいてプレーを選択できるようになる。そして、選手全員の考えることが同じ方向に向けば、それがチームプレーに結びついていく。

川崎で監督を務めていたときに、風間監督はよく「目がそろう」という言い方をした。

全員の目がそろえば攻撃の展開もスムーズになるし、守備でも狙いどころを定めることができる。その一つの完成形が、風間監督退任後、鬼木達監督の下でJ1リーグで4度の優勝を飾った、あの強い川崎フロンターレだった。

■すぐにレギュラーを「固定」するつもりはない

だが、こういうトレーニングの積み重ねには時間がかかる。全員が同じスピードで成長するわけでないから、バラつきも生じる。川崎でも、風間監督が就任した当初は、選手たちも、また見ている僕たちも何を目指しているのかが分からない時期もあった。

本当にチームがまとまって、川崎が強くなるまで2年くらいかかったのではないだろうか。

当然、南葛SCでのプロジェクトはまだ始まったばかり。そう簡単に、効果が出るわけはない。

今シーズンの南葛には40人の選手が登録されている。かなりの大所帯だ。

だが、風間監督はすぐにレギュラーメンバーを固定するつもりはないのだという。

風間監督の新しい強化法になかなか順応できない選手もいるかもしれないが、あるときから、新しいサッカーに慣れて、急に力をつけてくる選手もいるはずだ。そうした可能性を今の段階で摘んでしまうことはしないのだ。

そのうちに、自然にチームは固まっていくのだろう。ただし、風間監督の頭の中にも「いつ頃までに」といった工程表のようなものはないのだという。

■強行日程も…「試合は多いほうがいい」

4月6日の土曜日に関東リーグ開幕戦を戦った南葛は、10日水曜日に横河武蔵野戦があり、そして14日の日曜日に第2節の東京ユナイテッド戦を迎える強行日程となった。

だが、風間監督は「試合は多いほうがいい」と言う。多くの選手を使えるからだ。

関東リーグ1部は10チームが参加して2回戦総当たりで行われるから、リーグ戦は18試合だけ。その他のトーナメントなどを入れても、Jリーグクラブなどに比べれば、試合数はだいぶ少なくなってしまう(実際、天皇杯予選の東京都トーナメントはすでに敗退してしまった)。

風間監督が強調していたのが「プレーの速さを合わせる」「時計を合わせる」ということだった。

トレーニングで行っているプレーの速さを追求したいのだ。だが、トレーニングでできても、それを相手からプレッシャーがかかる試合の場で再現できる選手とできない選手がいるのだ。それを、試合経験を積むことによって合わせていく。そのために、40人の選手に出場機会を与えながら行う。それが現在の南葛での最大のテーマであるようだ。

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