「最後に…今回、先生もいなくなります」不登校などの生きづらさ抱えた生徒が自信を取り戻す高校 熱血校長と涙と感謝の別れ

不登校などの生きづらさを抱えた生徒たちが自信を取り戻していく、北海道苫前町の苫前商業高校。
募集停止の危機を乗り越えてきた高校ですが、この春、別れと出会いがありました。

3月22日。3学期最終日の苫前商業高校。
取材班が訪ねてみると、玄関にはいつもと変わらぬ佐藤恵一校長の姿がありました。

校内では、1年間を過ごした教室の大掃除です。

苫前商業高校は、地元の生徒だけではなく、いじめや不登校、人間関係に課題を抱え、環境を変えたいと悩みを持つ子どもも積極的に受け入れていました。
去年の全校生徒はわずか29人と少人数ですが、教師の手厚い指導や地域の大人のサポート、クラスメイトとの深い関わりを通じて、成長していました。

佐藤校長は、この日を最後に苫前商業高校を去ります。
函館市の高校に異動となったのです。
単身、見ず知らずの土地で過ごした2年間はどうだったのでしょうか?

苫前商業高校 佐藤恵一校長
「生徒募集に尽きたのかなと…」

昨年度、苫前商業高校は募集停止の危機に直面。
佐藤校長は、新入生が「2桁必要」という難題を抱えていましたが、この春18人の入学が決まりました。
募集活動の際、こんなことを話していました。

苫前商業高校 佐藤恵一校長(去年10月)
「(入学して)来たあと損はさせない。選んでもらえる自信はありますので」

多くの生徒たちの成長を目の当たりにしたからこその言葉です。

3年 高橋大和さん
「僕が入学したときに校長先生に呼んでもらって、『目が死んでるぞ』って。(校長先生から)『大和君にはこうしてほしい』って言われて自信を持てた」

苫前商業高校 佐藤恵一校長
「子どもたち本当に頑張ってくれたなと思っています。そのことも含めて子どもたちには感謝の気持ちを」

離任式。この春、5人の先生が高校を去ります。
生徒たちは、佐藤校長が学校を去ることを知らされていませんでした。

苫前商業高校 佐藤恵一校長
「最後に…今回、先生もいなくなります。…ごめんなさい、泣かないでお別れしたいと思ってました。2年間みんなの頑張っている姿を見られて、それが先生のエネルギーだったし、頑張ってこれました。残りの高校生活、頑張ってください。本当にお世話になりました。ありがとうございました」

別れの季節は、出会いの季節です。
雪深かった苫前町も、春の訪れを感じる暖かさ。
苫前商業高校の入学前説明会では、保護者も生徒自身も、学校生活に期待と不安を感じているようでした。

新入生 長谷川靖幸さん
「(楽しみなことは?)特にありません」
成田颯記者
「期待することとか、やってみたいことは?」
新入生 長谷川靖幸さん
「特にないです」
長谷川さんの母親
「でも…彼の考えで学校を決めて、高校からは家を出たいっていう気持ちの中で選んで決めた高校」

では、改めて…。

成田颯記者
「この学校に1番ひかれた理由は?」
新入生 長谷川靖幸さん
「特にない。ないかな~」

慣れない環境に緊張気味の様子。

遠別町から来た白幡七海さん。

新入生 白幡七海さん
「小学校のころいじめられてて中学校に行けてなくて。みんなと話す機会が中学校のときなかったので、高校生活でいっぱい話したい」

寮の見学会も行われました。苫前商業高校では、多くの生徒が親元を離れます。まだどこかぎこちない様子…。
日付は変わり、入学式。上級生たちも新入生を迎える準備をします。

2年 笹田果鈴さん
「(入学式は足が)重かったのはある。最初みんな不安なのは一緒だから」
2年 佐藤優衣さん
「気持ちは分かってあげられるから、一緒に頑張ろうかって」

入学式で宣誓を務めたのは、秋山七海さん。
1年生で唯一、苫前町の出身の秋山さんは、苫前商業高校の生徒たちがイベントで汗を流す姿を目にして入学を決意しました。

新入生 秋山七海さん
「明日から始まるので、エンジンかかってきたなという感じですね。地域をもっと明るくするような活動に力を入れて、(苫前町を)世に知らしめる。生徒会長になります!」

新しい学び舎での第一歩を踏み出した18人。3年間でどんな成長を遂げるのでしょうか。

離任式では生徒と先生の距離感の近さを感じました。
取材の中で、生徒たちからは「先生方が自分のささいな変化に気づいて声をかけてくれる、それが自分の存在を認めてもらえているという自信につながる」という声が多かったようです。

2年連続で新入生が10人を下回ってしまうと募集停止の可能性が出てきてしまうということで、離任する佐藤校長の思いとしては、「遠方からの子はもちろん、地元の子の進学率も上げていきたい」ということです。

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