夫との死別で「ボロボロだった」寺田理恵子を救った「音読」との出会い、人生の節目で支えてくれた先輩アナウンサーの存在

寺田理恵子 撮影/有坂政晴

1980年代、漫才ブームの最中に大ヒットとなった伝説のバラエティ番組『オレたちひょうきん族』(フジ)。その中の一つのコーナー「ひょうきんベストテン」の司会、ひょうきんアナ(二代目)を務めた寺田理恵子さん。それまでの女子アナウンサーの概念を崩し、元祖“アイドルアナウンサー”(通称“アナドル”)として、アイドルばりの活躍で人気を誇った寺田さんにとってのTHE CHANGEとは──。【第3回/全4回】

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2度目の結婚での夫と死別。

「2012年に夫を亡くしてから、いま思うと精神的にボロボロだったんです。食べられないし、体重もものすごく減ってしまって、筋力も衰えてフラフラでしたし、血圧も上がってしまいました。とにかく体が酷い状態で認知機能も落ちてしまい……。そういう状態が一年ぐらい続きました。そんな時にアナウンサーの生島ヒロシさんに声を掛けてもらったんです」

寺田さんと生島さんとの出会いはこの時が初めてではなかった。実はフジテレビを辞めてフリーになっての第一歩となった仕事が生島さんが司会を務めた朝の報道番組『ビッグ・モーニング』(TBS)でのアシスタントだった。つまりは、寺田さんの人生の節目節目(ターニングポイント)には生島さんの存在があった。

このころ、生島さんとの出会いの他にもう一つの出会いがあった。それが“音読”だった。

「すべての点でボロボロだった時に音読することで体が徐々に回復していったんです。同時に精神的にもやる気が出てきたら、人とつながる機会が増えていって、人生が随分と変わったんです」

今の時代でも通じる人間の感情や風刺を伝えたい

音読の素晴らしさもっと人々に知ってもらおうということで教室を開き、それを綴った著書を出版することになった。先日、上梓した『日々の名作音読で人生の深みを知る』(さくら舎)は『音読』シリーズの第3弾となった。

「第1弾の『「毎日音読」で人生を変える』を出した時に、読んで下さった方から『どういうモノを読んだらいいですか』とか『お薦めのモノを教えてください』とかいう感想が多かったんです。それに応えるカタチで第2弾『四季を感じる毎日音読』を出させてもらったんです。これは1週間に1作品を読むということをコンセプトにして、一年は53週あるので季節に合わせたモノをたくさんある名作の中から私が53作品を選び抜いて載せたんです。そうしたら、これもお陰様で好評で第3弾を出そうということになりまして。じゃあ、今度は何を書こう、伝えようかと考えたんです。そして、文豪が残した言葉を伝えたい、あるいは古典の中に書かれていているけど、今の時代でも通じる人間の感情や風刺を伝えたいと思いまして記したのが今回の『日々の名作音読~』なんです」

今回はタイトルにもある名作といわれる作品を中心に選んだ。

「例えば『枕草子』だったら『春はあけぼの』くらいしか読んでいない方が多いと思ったんですね。そこで、改めて現代語訳にしたものを全部読んだんです。そこで、その中から面白かったり、今と変わらないじゃないと思えたりすることがいくつかあったんです。子育てについて、噂話について、悪口について……クスっと笑える、今の時代にも通じるような感情を綴ったものがあったのでそういうものを選びました」

60過ぎても人生まだまだ深められます

寺田さんが本著に込めた思い(目的)は「作品を読んで欲しい」ということであった。

「『1分音読』とか『3分音読』といった本はこれまでも結構出ているんですね。でも、私は時間で区切りたくなかったんです。内容で区切りたかったんです。もっと言えば、読書の入り口にしたかったんです」

そんな寺田さんのリクエストで、山村方夫の『予感』は丸々全部(7ページ)が収録されている。

「そういう意味では,音読というより読み物の本じゃないかって言われています(笑)。私もちょっと、そっちに偏っちゃったのかなっていうのはありますね。必ず出典も含めて解説で使った本や粗筋も入れました。元々は『音読』がコンセプトなので、声を出しての朗読にさらに興味を持ってくれてもいいし、文学そのものに興味を持ってくれたら良いなって思っています」

地の文では単に解説だけに留まらず、その本から読み取れる「生き方」などについて言及している。

「まさに自分を磨けるとか、自分に気付きのあるものにしたかったんです。私のアナウンサー経験や取得した認定心理士の資格とかを踏まえて、文学の中から気付きや学びを探し出していきたいということがあったんです。
人って60歳を過ぎると段々と学ぶことが無いんじゃないかとか、80歳になると私は人生の全てを知っていますとかって思っている人がいると思うんです。でも、そう思っている人に、この本で“いやいや、人生まだ深められますよ”って、これまで見てきたことをもっと違う角度から見たら、人生に新しい発見があるんじゃないですか……ということを訴えたかったんです」

寺田理恵子(てらだ・りえこ)
1961年7月15日、東京都生まれ。聖心女子大学文学部卒業。A型。84年、フジテレビ入社。85~86年にバラエティ番組『オレたちひょうきん族』で2代目ひょうきんアナを務める。89年に結婚を期に退社、フリーとなる。98年に離婚。2000年に再婚し専業主婦として生活。しかし2012年に死別。2014年に復活。現在は朗読教室やアナウンススクールの講師を務めるかたわら、認知症サポーターとして朗読ボランティアや講演活動を行っている。

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