「真実が潰される事態は社会正義に反する」焦点は「DNA鑑定」に やり直し裁判は終盤戦へ【袴田事件再審公判ドキュメント⑬】

いまから58年前、静岡県の旧清水市(現・静岡市清水区)で一家4人が殺害された、いわゆる「袴田事件」の再審=やり直し裁判が4月17日、静岡地裁で開かれました。13回目となる今回、焦点が当てられたのは「DNA」です。
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<袴田巖さんの姉・ひで子さん>
「裁判はこれであと3回ですが、いつもと変わりない。裁判だでしょうがないのはしょうがないと思う。(結審の)5月22日まで頑張っていけるようにと思っております」

1966年、旧清水市で一家4人が殺害された、いわゆる「袴田事件」。死刑判決を受けた袴田巖さんは無実を訴え続け、2023年からやり直しの裁判=再審が続いています。

13回目を迎えた4月17日の再審公判で争点となったのは「DNA鑑定」です。

袴田さんの逮捕から1年2か月後に現場近くのみそタンクの中から見つかった犯行着衣とされる「5点の衣類」。このうち、半袖シャツの右肩についた血が袴田さんと同じB型であることが死刑判決の決め手となりました。

<社会部 山口駿平記者>
「半袖シャツに付着した血液のDNA型をめぐっては、長年議論が続けられてきました。きょうの公判でも弁護側、検察側の主張は平行線をたどっています」

約10年前、弁護団は再審開始を求めて「5点の衣類」についた血液のDNA鑑定を実施。法医学者の本田克也・筑波大教授による、いわゆる「本田鑑定」です。

<袴田事件弁護団 小川秀世弁護士>
「袴田さんのDNA型と右肩の血液のDNA型は一致しないという結論で、そのことによって袴田さんが無実であることがはっきりと裏付けられた」

2014年、静岡地裁は、DNA型は一致しないとする弁護側の主張を支持し、再審開始の決定をしました。しかし、続く東京高裁は、鑑定は信用できないとして訴えを棄却。最高裁でも、その見解は分かれていました。

この血液のDNA型について、4月17日の公判で弁護側は、これまでの鑑定は標準的な方法や機器を採用していて、その結果は信頼できると主張。「『5点の衣類』は袴田さんが着ていたものではない」と訴えました。

この日の冒頭陳述の終盤では「誠実な研究者が裁判所の嘱託に応えるため、専門的知見を活用し、良心に従って誠実な研究や実験に基づく鑑定を行い、それによって明らかにされた真実が『いじめ』で潰されるような事態は、著しく社会正義に反するというほかない。その最大の犠牲者は、真実を明らかにする証拠を潰される無実の被告人。DNA鑑定の証拠の取り調べでは、これまでの説明に十分に留意して、各証拠の信用性・証明力を検討されたい」としました。

本田鑑定の中でも検察などから批判が集中したのは、本田教授が5点の衣類の断片からDNAを抽出するためにあみ出した「選択的抽出法」でした。この手法について弁護側は、鑑定後に本田教授が発表した論文が国際的な学会で評価され、多くの人に読まれていることを紹介し「論文に問題提起されたことは1度もない」と述べました。

一方で検察側は、鑑定に使われた5点の衣類の断片のDNA量はごくわずかで、劣化して型判定は困難になっていた可能性を改めて指摘。「由来不明のDNAが混ざっている可能性があるため鑑定結果は信用できず、袴田さんが『5点の衣類』を着ていた可能性を否定できるものではない」などと反論しました。

鑑定は、本田教授だけでなく神奈川歯科大の山田良広教授も行いました。5点の衣類の断片は、試料として2人に二分して渡したといいます。検察官は「2人の全結果を比較すると、一見に相互に著しく相違していて、合理的な説明がつかない。(本田鑑定の)正確性は大いに疑問」と訴えました。

次回の公判は、4月24日水曜日に開かれ、5月22日には、結審となる見通しです。

公判を終え、会見に出席した袴田巖さんの姉・ひで子さんは、残る公判が2回となったことについて、「ようやく終わると思うとホッとする。判決には期待している」と話しました。

一方、静岡地検の小長光健史次席検事は「DNA型鑑定は複雑で判断することが自体が難しい」とコメントしました。

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