トラック野郎御用達!「ブギウギ」ロスは【ZZトップ】のブギーロックで吹っ飛ばせ!  米国で “ダイアモンド認定” !ZZトップの名盤「イリミネイター」

__連載【リ・リ・リリッスン・エイティーズ〜80年代を聴き返す〜】vol.52 イリミネイター / ZZトップ__

服部良一が作り、笠置シヅ子が歌って一世を風靡したブギウギ歌謡

2023年10月から放映されてきたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』が、先日ついに終了しました。ちょっと “ロス” です。NHK特有のオーソドックスな演出にいささか食傷しながらも、やはり、大戦前後の音楽人たちの話ですから、なかなか面白かった。印象に残ったのは、笠置シヅ子をモデルとした “福来スズ子" を演じる趣里さんが、大阪弁のイントネーションがほぼ完璧だったこと。そこかーい、と手の甲ではたかれるかもしれませんが、大阪ネイティブの私としては、大阪弁の発音は、ちょっと違っても気になるのです。でも、彼女は完全に東京育ちなのに、たいしたもんだと思いました。

あ、歌も、ついでじゃなくて、とてもよかった。笠置シヅ子さん本人の歌は、パワーはあるけど、リズムのキレがちょっとイマイチかなと思っていて、「ラッパと私」や「ヘイヘイブギー」は趣里さんの歌を聴いて、改めて、こんなカッコいい曲だったんだ、と再認識したくらい。もちろん、笠置さんのリアルタイムの歌唱は見聴きしたことないし、残っている映像で見るだけでも、身体全体を使ったその激しいパフォーマンスは、あの時代ではもう革命的と言っていいくらい、すごいインパクトだったんだろうなと分かりますが。

服部良一さんがつくり、笠置さんが歌って一世を風靡した “ブギウギ歌謡” は、米国のビッグバンドの“boogie-woogie” を取り入れたものですが、その音楽スタイル自体はもっと古く、1920年くらいから、ピアノ主体のダンスミュージックとして広まりました。30年代からジャズのビッグバンドが台頭し、“Swing” というスタイルを確立しますが、ブギウギもよく演奏されました。スウィングとブギウギは前者が4ビート、後者は8ビートという違いこそあれ、どちらも “3連符” 主体のリズム、すなわち “シャッフル” だから、親和性は高いのです。

「○」を強い音、「●」を弱い音としますと、「○●●」という3連が1小節に4つあるのがスウィング、「○●○」と3連符4つあるのがブギウギです。で、弱い音を弾かなければ、ブギウギのリズムは「タッカタッカ」のように聞こえます。つまり跳ねている。「♪ソソッラ ソッラソッラ うさぎのダンス〜」です。

実はロックンロール以前のポップミュージックというのはバラードものでないかぎり、みんな跳ねていました。ポップミュージックは何より踊るための音楽で、ダンスってものは基本跳ねてますからね。考えてみれば、歩くための曲、行進曲だってたいてい跳ねています。右左、同じリズムで足を繰り出すにも関わらず、音楽は跳ねているほうが歩きやすい。たぶん身体の動きって3連符が基本なんじゃないかな、なんて思っています。

エレキギターはブギウギが苦手?

で、ロックンロールの時代から、跳ねない、ストレートな8ビートが出てきたのですが、これは私は、エレキギターという楽器が、跳ねたリズムを弾くのに向いてなかったからかも、と考えています。ピックの上下の動きでカッティングをするので、「ジャカジャカ」と均等には弾きやすいと思いますが、「ジャッカジャッカ」と跳ねて、正確なタイミングで弾くのは難しい。まあ、私はギタリストではないので、間違っているかもしれませんが。

チャック・ベリーの「ジョニー・B.グッド」(Johnny B. Goode)がストレート8ビートの嚆矢(こうし)だと言われますが、よく聴くと、ドラムは跳ねているようにも聞こえます。そしてピアノは3連符がとても多い。ひょっとしたら、ベリーはホントはブギウギでやろうとしたけど、ギターでうまく弾けなくて、結果ストレートになってしまったのでは? で、“これもなかなかいいぞ” ってことになり、ストレートリズム向きの “ツイスト” なんていうダンスも発明されたりして、エレキギターが中心のロックミュージックは俄然、ストレート8ビートの道を突っ走っていったのではないか、と私は推測するのです。

エレキギターのブギウギ=ブギーロック

そこに出てきたのが “ブギーロック” という路線。あえてエレキギターでブギウギをやろうとした人たち。古くはジョン・リー・フッカー(John Lee Hooker)という人がいて、1948年に「ブギー・チレン」(Boogie Chillen’)という曲でデビューしました。だけど、そのギターは3連符の最後の1つだけ弾いているような、「●●○」って感じです。跳ねたスカのような。悪いけど、あまりいいノリじゃない。たとえばミード・ルクス・ルイス(Mead Lux Lewis)のピアノ・ブギウギ曲「Honky Tonk Train Blues」は1927年(!)の作品なのに、ずっとノリはよいです。でもこれは、ミュージシャンの力量じゃなくて、やっぱり楽器の特質のせいだと思うんです。

その後、60年代後半からキャンド・ヒート(Canned Heat)というブルースロック・バンドが活躍。彼らの『Boogie with Canned Heat』(1968)というアルバムが、ブギーロックを確立したと言われますが、やはりブギーロックと言えば、“ZZトップ” がその代表格でしょう。彼らが1973年にリリースしたシングル「ラ・グランジェ」(La Grange)は大ヒットして、今でも彼らの最人気曲のひとつですが、ブギーロックといったジャンル全体の代表的な作品でもあります。

ZZトップといえば、フロントの2人、ギターのビリー・ギボンズ(Billy Gibbons)とベースのダスティ・ヒル(Dusty Hill)の、カウボーイハットに長ーいあごヒゲという特徴的なルックスや、ドラムのフランク・ベアード(Frank Beard)(この人は “beard=あごひげ” という名前なのにヒゲはない…)も含めての3人がミュージックビデオなどで見せる、ちょっととぼけたキャラクターが人気でしたが、彼らのブギーロックがヒットしたのは、何より、エレキギターによるブギの跳ねがそれまでのどのバンドよりもグルーヴィだった、つまり心地よかったからに違いありません。

ビリー・ギボンズはまだ10代の時に、ジミ・ヘンドリックスにギターの腕前を褒められたり、エレキギターの「タッピング奏法(ライトハンド奏法)」という、エディ・ヴァン・ヘイレン(Edward Van Halen)で有名になった奏法の先駆者でもあるという、ギター達人です。ZZトップの一貫した魅力の第一は、やはりビリーのブルース魂溢れるギタープレイだと思います。

シーケンサーもブギウギが苦手?

ただ彼らにも、実はブギのリズムを使った曲はそれほど多くありません。ブギーロックの代名詞のように言われる彼らも、ブギの曲はせいぜいアルバムに1曲程度。やはりエレキギターのリフやカッティングが相性がいいのはストレート・グルーヴなんですよ。

そして、1971年のデビューから、1981年の『エル・ロコ』(El Loco)というアルバムまでの10年間は、ロック最小限の3ピースバンドということもあって、かなり素朴なブルースロックを貫いていたのですが、83年の『イリミネイター』(Eliminator)から急にシーケンサーとシンセを導入し、サウンドが厚みを増して、ビート感もアップして、大変貌を遂げました。多くの人のイメージにあるZZトップサウンドはこちらだと思います。

しかも、使い方がうまくて、シーケンスするシンセ音はあまり目立たず、もっぱらグルーヴを補強する役割。表向きはやはりギター中心のブルースロックのままなんです。音楽性は変えず、サウンドだけ強化した。以前のサウンドならどこにでもある、と言っては失礼だけど、それほど特色はなかったんですが、この『イリミネイター』(Eliminator)では、一聴してZZトップだと分かる、個性的かつポップで中毒性のある音が実現しました。

ところが、このシーケンサー、つまりコンピューターリズムですが、これもシャッフルが苦手なんですよ。「○●○」3つ目の音符の置き所が微妙で、もちろん望みのポイントに正確にプログラムできるのですが、その “正確に” というのがクセモノで、なぜか機械のシャッフルはノリが堅い。揺らぎがあってこそのシャッフルで、人間にしかできないのかもしれません。打ち込みのジャズなんて考えられないでしょ?

なので、『イリミネイター』以降はますます、彼らはブギーロックから遠ざかります。このアルバムでは「彼女の心が得られたら」(If I Could Only Flag Her Down)1曲だけがブギのリズムですが、やはり機械シャッフルなので、ノリはどうも気持ちよくないですね。

でもそれ以外はノリノリで、このアルバムはとにかく売れました。米国で “ダイアモンド認定” を受けまして、これはプラチナム=100万枚の10倍、つまり米国内だけで1,000万枚です。チャートの最高位は9位なので、改めて米国の市場の大きさに驚かされますが、特に長距離トラックのドライバーが好んだので、レコードよりテープの売上のほうが大きかったそうです。

日本では八代亜紀さんがトラック野郎たちのマドンナでした。日本とアメリカはやはり文化が違うな―と思いつつ、八代亜紀の歌にある、日本人の心の故郷=演歌と、ジャズやポップスが好きなセンスとのハイブリッド感覚は、ZZトップの、アメリカ人の心の故郷=ブルースロックと、シーケンス導入が強化したダンスグルーヴとのハイブリッド感覚と、案外共通するのかもね、なんて考えてもいます。

カタリベ: ふくおかとも彦

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