【社説】ハンセン病差別 国民の意識変える啓発に

ハンセン病への差別、偏見は国民の意識に根強く残っている。重い現実が厚生労働省の調査で明らかになった。

今なお苦しめられている元患者や家族がいる。調査結果を分析し、国民の意識と行動を変える教育、啓発に取り組まなくてはならない。

国がハンセン病に関する全国規模の意識調査をしたのは初めてで、インターネットで約2万1千人が回答した。

調査報告によると、9割がハンセン病を知っていた。8割は「差別は人間として最も恥ずべき行為」と答えながらも、元患者や家族が身近になると態度が変わるようだ。

近所に住むことや、食事を共にすることに1割前後が抵抗感を示した。同じ浴場の利用、家族同士の結婚になると約2割に増える。

潜在的な差別意識の表れだろう。本来はゼロであるべき抵抗感を5人に1人が持っているのは深刻だ。

驚いたのは、啓発のシンポジウムなどでハンセン病の情報に接した人の方が、そうでない人よりも抵抗感が強かったことだ。教育や啓発活動が誤った意識を植え付けた可能性がある。

2013年に福岡県の小学校で、ハンセン病の授業を受けた児童が「怖い」「うつらないようにマスクをする」などと感想文に書き、元患者に送ったことが問題になった。授業をする教員には十分な理解と配慮を求めたい。

ハンセン病差別は明治から平成まで約90年にわたる国の強制隔離政策によって助長され、患者の家族は引き裂かれた。差別をなくす責務はもちろん、国にある。

元患者による国家賠償請求訴訟で、01年の熊本地裁判決(確定)は国の人権侵害と憲法違反を認めた。以後、理解を助ける教材やパンフレットが数多く作られ、シンポジウムも各所で開催された。

今回の調査結果を見ると、差別解消には程遠い。

学校に配布された副読本が活用されず、パンフレットは公共施設の一角に置いたままになっていないか。国で対策を担う厚生労働、法務、文部科学の3省はこれまでの取り組みを検証すべきだ。

元患者の家族が16年に起こした集団訴訟で、被告の国はハンセン病への差別や偏見は基本的に解消されていると主張した。現実は全く違う。

500人を超す原告の中には、家族に元患者がいることを知られ離婚した人がいる。差別を受けた経験もあり、大半が名前を明かせなかった。

ハンセン病差別は決して過去の問題ではない。実情を踏まえて有効な教育と啓発の手法を考えたい。

自治体と教育委員会にも当事者意識を持ってほしい。差別を助長したのは国だけではない。自治体が加担したことを忘れてはならない。

国民もまた加害者である。私たちの意識が変われば、社会からハンセン病差別をなくすことはできる。

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