日本製鉄に立ちはだかるUSスチール巨大労組と族議員たち…買収完了への道のりはまだ1合目(重道武司)

さっそく日本製鉄の中国事業を問題視に(民主党のシェロッド・ブラウン上院議員)/(C)AP=共同

【経済ニュースの核心】

日暮れて道遠し──。日本製鉄関係者にとってはそんな思いだろう。日鉄が米国鉄鋼大手、USスチールに対して提案していた買収計画が先週末、同社の臨時株主総会で承認された。

だが買収実現に向けての正念場はむしろこれからだ。米当局の認可を得る必要があるからだ。行く手には昨年12月の買収計画公表以来、一貫してそれに「反対」し続けている米国最大級の労働団体、全米鉄鋼労働組合(USW)と、USWの意を受けた「スチール・コーカス」と呼ばれる連邦議会の鉄鋼族議員ら“難敵”が立ちはだかる。

株主総会で日鉄の買収計画は約71%の賛成を獲得した。日鉄が提示したTOBによる買収価格は1株55ドル。計画発表直前のUSスチール株の終値に4割超のプレミアムを乗せており、「承認」は半ば既定路線とみられていた。

米当局の認可取得のために今後本格化する審査は2つの観点から実施される。対米外国投資委員会(CFIUS)による経済安全保障上の問題と、司法省および連邦取引委員会(FTC)による競争政策上の視点だ。

このうちとりわけ難路が予想されているのがCFIUSの審査だ。M&Aが米国の安全保障上の脅威と見なされれば大統領に「差し止め」を勧告する権限を持つが、委員会のメンバーは政治任用。時の政権の意向に左右されやすく、「裁量の範囲が大きい」(事情通)ためだ。

しかも11月の大統領選挙における労組票取り込みをにらみ、現職のバイデン氏は3月「慎重」な姿勢を表明。先週の日米首脳会談後の記者会見でも「私は米労働者への私の約束を守り続ける」としてUSWに寄り添うかのような意向を示した。

共和党の大統領候補指名を確実にし、バイデン氏とその座を争うトランプ氏に至っては「私(が大統領)なら瞬時に(買収を)阻止する」とバッサリ。取り付く島もない。

■中国政府との密接ぶりに注意喚起

日鉄にとって厄介なのは鉄鋼族の一員とみられる上院議員らが同社と中国政府との密接な関係性への注意喚起を訴えていることだろう。現在ではすっかり冷え切っているとはいえ、かつては「中国の製鉄業近代化にひとかたならぬ支援を注いだ」(鉄鋼業界筋)のは事実。歴代経営陣の中には中国への「贖罪(しょくざい)意識」を口にする首脳もいた。

買収完了への道筋ははるかにかすんだままだ。

(重道武司/経済ジャーナリスト)

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