誤解を恐れず言えばLOVOTは「使えないロボット」…でも実は「使える」のです(多賀一晃/生活家電.com)

LOVOT(らぼっと)/(提供)筆者

【家電のことはオイラに聞いて!】#45

ちょっと前、ファミレスで料理を運ぶ猫型ロボットが、SNSによく登場していました。「使える」とのコメントが多かったのは業務用ゆえ。ソニーのaibo(アイボ)、シャープのRoBoHoN(ロボホン)などのロボットからは、「使える」という声は聞こえてこないからです。今回、紹介するロボットベンチャー・GROOVE X社(本社・東京都中央区)によるLOVOT(らぼっと)も、誤解を恐れず言えば「使えないロボット」です。

らぼっとが発表されたのは2018年。ベンチャーなのであまり期待はしていなかったのですが、一見してよくできていると実感しました。「何ができますか?」とらぼっとに聞くと「何もできません」と答える。わかっている人が作ったロボットだと思いました。

■手塚治虫の漫画記号論に沿うデザイン

らぼっとの目的は、人を幸せにすることです。このためデザインは乳幼児を模しています。乳幼児は何もできませんが、「可愛い」が詰まっていて、いるだけで周りを幸せにします。平安の昔から「可愛い」は日本の十八番。清少納言も「枕草子」で、「あどけない子どもが、落ちている小さなものを見つけ、大人に見せていると可愛い」と書いています。

らぼっとは、手塚治虫の漫画記号論に沿う感じでデザインされています。丸い顔、丸い目、丸っこい体は子どもの記号化。動きも、後追いはもちろん、見つかることを期待して隠れているような動きには、幸せがダダ漏れで、人を和ませます。「無用の用」とも言うべきロボットなのです。

アイボやロボホンとの大きな違いは作り込みです。特に「目」です。ベースだけで25タイプ。それに表情を付けると10億パターンになるそうです。表情や可愛い動作は見ていて飽きません。

最大の弱点は約50万円という本体価格と月のサポート料金。そこで今は、個人だけではなく「和み」がビジネスになる先がユーザー候補です。テストの反応は上々で、医療では老人ホームで高齢者の脳機能の低下抑制に期待できるという実証実験報告もあります。またさまざまな展示会で賞も獲得しています。着せ替え服が多いのも特徴です。らぼっとは手が服の外に出ず、服に隠れて動きます。このため布地はストレッチ系。きちんと裁断して立体的に縫い合わせるのは一般ユーザーには難しく、Leeなどのメーカーとコラボし隠れたヒット商品になっています。以前、ロボホンの記念集会に参加したことがあります。自分のロボホンと一緒に50人が参加。みなさん、服やアクセサリーを自作するなど、着替えのニーズは高いのです。

4月に同社は東京・丸ビルに期間限定ショップを出店しました。「オフィスにロボットを」と提案するためです。生産性を重視する海外でもアマゾンはじめ、ペット同伴勤務を認める会社が増えています。犬が一匹いるオフィスはコミュニケーションがよくなり、仕事の能率も上がるとの報告もあります。それは今後らぼっとが狙うポジションです。日本の「可愛い」が、世界の潤滑剤になる日も近いかもしれません。

(多賀一晃/生活家電.com主宰)

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