シンガーソングライター・谷山浩子「若かったら絶対に同人誌を作っていた」パソコン通信歴30年以上「ネットに動画がアップされても削除は頼まない」

谷山浩子 写真/能美潤一郎

シンガーソングライター・谷山浩子の歌声に魅了されない者はいない。『まっくら森の歌』や『恋するニワトリ』といった、『みんなのうた』(NHK/Eテレ)でおなじみの楽曲から、斉藤由貴へ提供した楽曲『土曜日のタマネギ』など、アイドルから声優まで幅広いプロデュースを手掛けている。今年でデビュー52年目を迎えるシンガーソングライター、谷山浩子の人生の転機とは?【第6回/全6回】

シンガーソングライターの谷山浩子さんは、初期のパソコンユーザーとしてもファンの間ではよく知られている。パソコンとの出会いはいつだったのだろうか。

「最初にパソコンを買ったのは1980年でしたが、そのころはまだマイコンと呼ばれていて、ユーザーもプログラマーやSEや一部のマニアの人たちだけでした。まだオタクという言葉もなかったころです。その数年後、ちょうど第一期オタクブームの人たちが、私のオールナイトのリスナーになってくれました」

谷山さんのネット歴は長い。パソコン通信を始めたのは、80年代半ばまでさかのぼる。

「『草の根ネット』(※主に個人やグループが運営していた小規模なパソコン通信)への参加から始めて、まだ無料だった頃の『アスキーネット』(※1985年にパソコン関連出版社のアスキーが提供していたパソコン通信)など大手の商用ネットにも参加していました。

アスキーネットでチャットをしていたときに、“女だ”っていってもなかなか信じてもらえなかった。その話が、いつのまにか“谷山浩子って名乗っているのに、なりすましはやめろって言われた”って噂になってしまったんですよ。でもそういうことはなかったです」

「どちらかというとオタク気質」

自身の性格を「どちらかというとオタク気質」という谷山さん。なにごとも追求する姿勢が感じられる。

「なにか集中できるものが見つかると力が出るのですが、自分でそれを上手くコントロールできないのが難点ですね。ふっとやる気がなくなるとだめになる。逆に言うと、面白いと思ったときにしか、力が出ないんですよ。

今の時代に自分が若かったら絶対に同人誌を作っていたに違いないって思います。パソコン通信で知り合った友達の何人かとは今もつきあいがある人もいます。『日経MIX』(注:1987年から商用利用された、日経マグロウヒル=現・日経BPが運営していたパソコン通信サービス)を利用していたころ、みんな実名だった。私もプロフィールを書いて、ハンドルネームは“Taniyama”で参加していました。みんなでオフ会として旅行に行ったこともありました」

谷山さんがすでにアーティストとして活躍中の80年代、90年代にパソコン通信でさまざまな人と交流していたその先見性には驚かされる。

「当時は今とオタクの気質が違ったのかもしれません。自分の印象ですけど、昔はもっと自分から何かを作り出す人たちが多かったんじゃないかな。コミケを作ったり、『日本SF大会』(注:1962年から開催されているSFファンが集まるイベント)を開催したりした人もそうですよね。

パソコン通信で親しくなった人のなかには漫画家や、ゲーム制作をしていた人もいました。そういえば、斉藤由貴ちゃんも、学生時代は漫画研究会の部長だったって言っていましたね。時代が違っていたらコミケとかに出ていたんじゃないかな(笑)」

その考え方は、谷山さんの楽曲を利用した動画のあり方にも柔軟な姿勢を貫いている。

「ニコニコ動画やYouTubeに曲の動画がアップされていても、削除要請はしなくていいってお願いしています。普通だったら私の楽曲が届かない層の人たちも、その動画から聞く機会を持ってくれるかもしれないので、デメリットよりメリットのほうが大きいととらえています」

インターネットに早くから触れていた谷山さん。枠にとらわれない発想で描かれる不思議な歌詞や音楽を生み出す源は、その好奇心と行動力なのかもしれない。

谷山浩子 写真/能美潤一郎

谷山浩子(たにやま・ひろこ)
1956年8月29日生。神奈川県出身。シンガーソングライター。中学在学中からオリジナル曲を作り始め、1970年にベイビー・ブラザーズのシングルで作詞作曲家としてデビュー。1972年4月25日、アルバム『静かでいいな 〜谷山浩子15の世界〜』とシングル『銀河系はやっぱりまわってる』で一度目のデビュー。1974年『第7回ポピュラーソングコンテスト』で『お早うございますの帽子屋さん』が入賞。同曲で翌年、再デビュー。1977年シングル『河のほとりに』をリリースし、3度目のデビュー。以後、「オールナイトニッポン」をはじめとするラジオ番組のパーソナリティ、童話、エッセイ、小説の執筆、全国各地でのコンサートなど、精力的に活動中。

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