小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=126

「私の友だちは上品な人ばかりだから、大丈夫」

「パパイの友だちは上品じゃないのかい」

「飲んで酔っ払うから」

 私はわざと気難しい顔をして見せた。

「パパイの短歌のお友だち呼んでやるといいわ。そしたら、パパイも退屈しないでしょ?」

「そうだな」

「だけど、苦虫を噛み潰したみたいな顔はしないでよ。私の友だちが恐がるから」

「解った、解った。そのくらいお前が友だち以外の者にも気を配ると、いい娘なんだがな」

「みんなが、いいカズだって言ってくれてるわ。パパイだけよ、小言ばかり言うのは」

「お前も、もう子供じゃないんだな」

「そうよ、パパイのことよく見ているのよ。横見しないでって」

「そうだったのか、やられたな」

 私は照れ笑いしながらも、心暖まるものを感じた。娘には娘なりの心配りがあるのだということが、この時、改めて解ったのだった。

 私は早速、秋野朋子へ延び延びにしていた返信のお詫びと、娘の誕生日にはぜひ遊びに来て欲しい旨の手紙を書いた。書きながら、こういうのが娘の言う《横見》に通ずるのかもしれぬと考え、苦笑した。――そんな下心のある招待ではないんだ――私は己に弁解しつつも、その思いが本心かも知れぬという気もして、何かを期待するものが、確かに自分の内部に燻っていた。それを明確にすることを惧れる気持があった。

 私は、吉本にも、朋子宛てと同じ内容の案内状を認めて投函した。

〈了〉

 

 

(一)

 

 

 物語の舞台は、ブラジル中央台地の大魔境。

 密林の水脈から湧きでた流れが、幾筋かの小川を集めては南へ蛇行し、カンバラ川と合流していた。周辺は岩塊の多い荒蕪地であるが、大昔、原始林だった境域も残っている。椰子の疎林が散在し、沃土の川畔にはリッシャ(ボウシューボク)の灌木が美しい再生林をなしていた。

 斜面の一画を均らして、三×四メートル位の山小屋が一軒建っている。四本の柱に灌木の梁を、モンステーラ(ホーライショウ)の繊維で固定し、屋根は椰子の葉で葺いてある。囲い仕上げも同じく椰子の葉を並べたもので、遠くから見ると巨大な鳥の巣のようだった。

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