糖尿病の人は「心房細動」に気をつけろ…脳梗塞や心不全を招く

早期発見のために脈拍を毎日確認すること

糖尿病の合併症といえば、網膜症、腎症、神経障害の3大合併症が有名だが、忘れてならないのが「心房細動」だ。日本でも年々増えていて、2030年には患者数が108万人になると推定されている。心臓が震えるこの病気は、血栓をつくり、それが脳に直撃するなどして致命的な脳梗塞や心不全などを引き起こす。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

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「糖尿病は心房細動の発症リスクのひとつであり、糖尿病の人はそうでない人に比べて心房細動になりやすいことが知られています。高齢になるほど発症は増加し、肥満や高血圧、糖尿病性腎症がある人はそのリスクがさらに高いとされます」

全米の4地域の住人1.6万人を対象として1985年から継続中のARIC研究、1948年から3世代1.5万人超参加のフラミンガム心臓研究でも、糖尿病は心房細動発症の独立した危険因子であることが示されている。日本人を対象とした複数の研究でも同様の結果が報告されている。また、2004年発表のスウェーデンの住民1739人を対象とした研究では、心房細動リスクは糖尿病で2.0倍、糖尿病と高血圧の合併で3.3倍に上昇することがわかっている。

「心房細動は心臓の中にある血液を出し入れする部屋のひとつである心房が、通常の4~10倍小刻みに震えることをいい、動悸や息苦しさやめまいなどの症状に加え、心臓のポンプ機能が衰弱した状態である心不全や脳梗塞を引き起こす原因となります」

心房細動は発作の持続時間によって発作性(数時間~数日)、持続性(1週間以上)、慢性に分かれ、放っておくと症状が進行して脳梗塞や心不全の発症リスクが高くなる。心房細動が続くと心房内で血液がよどんで血栓ができて、それが心臓から飛び出して体のあちこちの動脈を塞いでしまう。

「とくに怖いのは脳の血管を詰まらせる脳梗塞で、心原性脳梗塞と呼ばれるこのタイプの脳梗塞は、太い血管を詰まらせることが多いため重篤になりやすく、結果的に四肢麻痺や言語障害などの重度の後遺症が残ったり、死亡する割合が高いとされています」

■予防のために毎日「脈」を測る

ある70代の男性は胸の苦しさを感じたり、動悸に襲われたため、辛院長が診断し、循環器の専門医に確認してもらったところ、心房細動が見つかった。この男性は糖尿病歴20年だったという。

「私のクリニックの糖尿病患者さんの中にも心房細動を合併している人が少なくありません。先にお話しした通り糖尿病が心房細動の危険因子であることはわかっていますが、その機序はハッキリしていません。冠動脈硬化と高血圧を伴わない心機能障害である糖尿病性心筋症や神経障害や血液を固めるための血小板の亢進、心臓の筋肉の線維化、酸化ストレス、炎症などが関係しているのではないか、との指摘があります」

心房細動は、早期に適切な治療を行うことで脳梗塞発症のリスクの軽減が期待できるが、それには日常のちょっとした心がけが重要になる。

「糖尿病の患者さんが心房細動を早期発見するために気をつけたいのは、心房細動を疑う症状である動悸、息切れなどに敏感になることです。しかし、高齢者の中にはこうした症状を軽く考えて、疲れのせい、年齢のせいにしてしまうケースも少なくありません。そこでおすすめしたいのが、脈拍を毎日確認することです」

脈は人さし指、中指、薬指の3本で、手首の親指側を触ることで測定する。一定のリズムを刻んでいれば正常で、脈が飛ぶようなら、医師に相談する必要がある。

「脈を自分でとるのは難しいという人は、脈拍を測定できる家庭血圧計を使うのもいいでしょう。正常でない脈拍値が続けば、心房細動などの不整脈が出ている可能性があります。心当たりがある人は、なるべく早く医療機関を受診することが大切です」

最近の研究で、コントロールが不良の糖尿病の方が心房細動を起こしやすいことや、糖尿病治療が心房細動リスクを低下させるとの報告もある。糖尿病の人はまずは、適切な管理をすることが重要だ。

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