「数は力」の政界でなぜ1人? 1人会派が政令市最多の広島市議会 理由を探った

広島市議会議事堂

 自民党の国会議員たちが派閥を形成してきたように、政治の世界は「数は力」と言われる。政令指定都市で最も多い12会派が乱立する広島市議会(定数54)でも、最大会派が議長などの主要ポストを握る。一方、五つの1人会派があり、こちらも政令市で最多。「大きな塊」に加わらず、1人を選ぶ理由は―。

 広島市議会の最大会派は14人の自民党市民クラブ。議長と、ナンバー3の議会運営委員長に加え、六つある常任委員会の正副委員長が各3人いる。山路英男幹事長(東区)は会派としてまとまる意義をこう強調する。

 「人事と政策実現はイコールの関係。議長や委員長がいる会派の発言は重みが違い、市側も本気でやろうとなる。性質的には派閥と変わらないのでは」。会派内で議論して意見をまとめることで推進力が増すと説く。

 所属議員が多い会派のメリットは他にもある。2~3月にかけて、2024年度当初予算案を審議した定例会。予算特別委員会の質疑時間は会派の議員数を基準に割り振られた。総括質疑で、自民党市民クラブは持ち時間118分を使い3人が質問。対して1人会派は各9分だった。

 また、広島市議会で議会運営に直接関与できる「交渉会派」は3人以上。1人会派は議会の日程や議案の扱いなど重要なルールを決める場で意見を述べられない。同様に議会改革推進会議や政策立案検討会議のメンバーにもなれない。

 ではなぜ1人会派になるのか。持ち時間が1人30分ある定例会の一般質問は交渉会派の所属議員だけでなく、1人会派の議員も議長が許可すればできる。ただ、それだけではない理由を当事者たちが語る。

 木村唯氏(新風クラブ、南区)は昨年4月の市議選に無所属で出て初当選。夏ごろに自民党に入党したが、他会派の勧誘を断ってきた。ベテランたちとの考え方の違いから「自分の意見を言えるのがいい。慣例、慣習で進むだけで何も変えようとしない議会には違和感しかない」。役職にも興味がないという。

 同じく1期目の門田佳子氏(無党派クラブ、中区)は「市民から言われたそのままの態度を表明できる。無所属、無党派で是々非々で行動できる人と組みたいけど、そういう人があまりいない」と主張する。

 20政令市で、1人会派をつくれるのは広島や名古屋、仙台など9市。残る横浜や京都など11市は会派を2人以上からとしている。会派に所属しない無所属扱いの議員が最も多いのは熊本市の6人となっている。

 広島市議会では、議会内の主導権争いや政策への賛否から、自民党系を中心に会派が離合集散を繰り返してきた歴史もある。9日で改選から1年たち、現任期は5月2日から2年目に入る。固まるのか、ばらけるのか。次の会派の変遷はいかに。

 地方議会に詳しい近畿大法学部の〓陽教授の話

 会派は基本的に政党を軸に、実現したい政策が似通う仲間が集まってつくる。ただ、地方議会では首長選や正副議長選をきっかけに会派が割れることも多い。そのような場合、同じ「自民党」を冠する二つの会派があって、政策的に目指す方向性は変わらないため有権者には分かりにくい。

 また、広島市議会は定数4~11の中・大選挙区制。公明や共産のような組織政党に所属しない議員候補者は「無党派」「市民派」として選挙を戦い、当選後も1人会派で活動する方が当選確率を高めやすいという狙いもあるのではないか。

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